さかいゆうがコロナ禍に学んだ「音楽を奏でる意味」 混沌とした社会に思うこと

BLM運動と「死」について思うこと

ーアルバムの話に戻ります。本格的なレコーディングに入ったのはいつ頃でしたか?

さかい:スタジオに一番入っていたのは9月から10月くらいでした。1回目の緊急事態宣言が発出された段階では、これからどうなるのか分からなかったですからね、「今リリースするのは難しい」みたいな判断も、状況によって変わっていくし。ただ、「よし、1月に出そう!」と決めてからは早かった。

ー本作に収録された「BACKSTAY」は、コロナ禍だから生まれた曲だと思います。個人的には、さかいさんのこれまでの楽曲の中でも一二を争う名曲ではないかと。

さかい:嬉しいです。僕は自分の人生のドキュメンタリーのように音楽を作っているので、そうやって人生を反映させた曲を書いて、それが誰かの役に立てたら何よりです。

2020年は自分がこの世界にいる価値や満足度みたいなものを、思いっきり考えさせてくれるような1年でしたから。自分がナチュラルにやりたかった音楽って、こういうものだったんだと思えたし、この感触を忘れないようにしながら、これから何枚かアルバムを作っていきたいなと思っています。



ー「His Story」は、いわゆるブラック・ライヴス・マター運動に触発されて作った曲なのかなと思いました。

さかい:ブラック・ライヴス・マターに関しては、いろんな情報が錯綜し過ぎていますよね。僕は相当調べている方だと思いますよ。本も読んだし、運動に携わっていた人とも話した。誰が嘘をつき誰が適当なこと言っているか、誰がどこに属して、どの立場で発言したり発言できなかったりしているのか、知れば知るほど落ち込むんですよ。結果、「ノーコメント」が一番いいなと。



ーなるほど。

さかい:実際にものを壊したり、暴動を起こしたりしていることについては、僕自身は賛成できないですね。根っからの個人主義なので、そもそも集団というものをあまり信じていない。僕らが見せられている世界は、もしかしたら全く違うパラレルワールドなのかもしれないとも思うんですよ。その人の宗教や正義によって、見える世界が違いますからね。そこで「自分が正しい」と頑なに思う人たちの間で争いが生まれている。

ー確かにそうですね。

さかい:みんなが「正しい」と言っているから「正しい」と思うのは危険なんですよ。地動説を訴えて裁判にかけられたガリレオ・ガリレイなんて、いい例じゃないですか。「His Story」を書いたのは、別に「黒幕を暴いてやる!」とかそういう気持ちがあったわけではなくて(笑)。僕らの中に潜む、ちょっとした強欲さみたいなものから生まれる大きな嘘に関心があるし、それも含めて「人間って狡くて姑息で欲深く、そして可愛いな」と思って作った曲です(笑)。

ーアルバム冒頭曲「崇高な果実」の歌詞は売野雅勇さんで、“戦火の街を逃れ国境を越える”という歌い出しが非常にインパクト大です。

さかい:売野さんに「コロナ禍の今、売野さんが心から叫びたいことを書いてください」とリクエストしたんです。「どんな歌詞でも歌いますので」って。そしたらあの歌詞が上がってきた。僕だったら絶対に書かない歌詞ですし、売野さんにしても普段なら絶対に書かない内容だと思う。そういう意味では「音楽」というキャンバスがあったおかげで、僕ら2人の本音がそこに刻み込めた感じですね。これからゆっくり、じっくりと歌っていきたいです。



ー売野さんとは前作でもタッグを組み、「Soul Rain」では死生観について歌っていましたよね。

さかい:究極を言えば、僕は「死」にしか興味がないかもしれないですね。「どうやって死ぬか?」を常に考えているし。この世に生きている人、全員に「死」が訪れるなんて、なんだかロマンティックだと思いませんか? 何故こんなにも「死」を悲しいもの、忌避すべきものみたいに決めつけられているのかが、不思議で仕方ないんですよね。

すごく偉そうな人も、道に唾を吐いているような人間も、店でスタッフにイチャモンをつけている連中も、「ああ、この人たちいつかは全員死ぬんだ」と思ったら、少しは優しい眼差しで見られると思うんですよ(笑)。各々が死へと至る過程で「そうなっちゃってる」だけで、みんな「死」に向かって突き進んでいる。そんなことばかり考えているというか、まだ言葉にできていない思いが自分の頭の中にたくさんあって。いつかちゃんと曲にしたいですね。40代に突入して、きっとまた言いたいことも新たに出てくるだろうし。

ーそこはすごく楽しみなところでもあります。

さかい:ずっと歌詞を書き続けている人たちってすごいですよね、クロマニヨンズとか。「まだ言いたいことがあるのか!」って本当に驚く。僕の声はロックンロールに向いてないのですが、その気概は見習っていきたいです。やっぱり、「牙」がなくなってしまったら野に咲く花と同じですから。まあ、死ぬ数カ月前くらいになったら、野に咲く花のようになりたいですけど(笑)。

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