WONK江﨑文武が語る、巨匠エンニオ・モリコーネの音楽愛と果敢な実験精神

ダークでサイケデリックな一面にフォーカスした『モリコーネの秘密』

─昨年10月に、モリコーネのダークでサイケデリックな一面にフォーカスしたコンピレーション作品『モリコーネの秘密』がリリースされました。このコンピ作品を聴いて、江﨑さんはどんな感想を持ちましたか?

江﨑:モリコーネの引き出しの多さ、表現の幅の広さを再認識できる絶好のコンピレーションだと思いました。美しい名曲が多いばかりに、なかなかこうした実験的なサウンドに陽が当たってこなかったので、ご本人もきっと天国で喜ばれているのではないのかな。

─アルバムに収録されている楽曲の中で、どの曲がお気に入りですか?

江﨑:どれも「本当にモリコーネ作品?」と思わされる内容ですが、なかでも“グロテスクな幽霊”(映画『STARK SYSTEM』より)は、ジャズ・ファンク〜フュージョン的な要素が含まれたセッションのような楽曲で非常にユニークです。

何かのインタビューで、「モリコーネの作品は『これはジャムセッションだよね?』というサウンドの曲も全て楽譜にしてある。彼は即興演奏を信用していなかったから」といった趣旨の発言を見かけた気がするのですが、真実だとするとこの曲は本当に複雑な譜面になっていると思います。



─そういえば、モリコーネは60年代終わりから70年代にかけて、実験的かつ即興的な作曲家集団として知られるGruppo di Improvvisazione Nuova Consonanzaに参加していました。そこからの影響も、多分にあるような気がします。

江﨑:そのグループの音源はこれまで聴いていなかったのですが、作品の中で時おりジャズミュージシャンを起用している点で、「作り込まれた音楽」に対してもある程度の「遊び」を持たせたい気持ちが見て取れます。モリコーネ自身、トランペット奏者としてジャズに触れたこともあったようですしね。




モリコーネが果敢に挑んだ実験的な試みに江﨑が感じること

─モリコーネの作品の中で、変態度、サイケデリック度がとりわけ高いと江﨑さんが感じる楽曲というと?

江﨑:彼の作品全てを聴けているわけではないのですが、「そんなのありえない」(映画『My Dear Killer』MIO CARO ASSASSINOより)は、ずいぶん攻めた楽曲だなと思いました。



─美しく叙情的な楽曲を数多く生み出す一方、『夕陽のガンマン』のメインテーマのように銃声など効果音を取り入れたレコーディングや、「Magic and Ecstasy」など60年代ロックなどにも影響を受けたサイケデリックなサウンド、『夕陽のギャングたち』のメインテーマ「Giu’ la testa」における、どこか不穏なストリングスや女性ボーカルを導入したアレンジなど、実験的な試みにも果敢に挑んでいたモリコーネですが、こうした作品について江﨑さんはどのように感じますか?

江﨑:ジャズがビバップ、クール、そしてモード等を経て再びフュージョン、ファンク、ロックへと展開していった時代背景、あるいはミュジーク・コンクレートをはじめ、クラシックの分野でも現代音楽における重要なアイデアが誕生していた時代であったことを考えると、モリコーネ作品にもそうした激動の時代が反映されていたということなのだろうと思います。


「Giu’ la testa」(『夕陽のギャングたち』より)

Edited by Aiko Iijima

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