女性差別というロックの悪しき伝統を覆す、フィービー・ブリジャーズによる「ギター破壊」の意味

ロックの伝統を覆すフィービーの存在感

フィービーの行動はすべて、ロックで語り継がれる定石を自分のものとして取り入れること――彼女はそれをずっとやり続けてきた。「Kyoto」のパフォーマンスの時に着ていたスケルトンスーツはその後も彼女のトレードマークになったが、元はといえばザ・フーのジョン・エントウィッスルが始めたものだ。2018年にジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスと共にボーイジーニアスというスーパーインディーグループを結成した際には、クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュの1969年のデビューアルバムのジャケ写を模して、3人でソファに座る写真をEPのカバージャケットに採用した(フィービーはどちらかというとニール・ヤングに近いが、このアルバム当時ヤングがまだ参加していなかったことを考えれば、彼女がグラハム・ナッシュと同じポーズをしているのは善しとしよう)。



フィービーはロックの偶像に傾倒する人々だけでなく、ロックというジャンルそのものとも複雑な関係にあった。最新アルバム『Punisher』でも彼女は容赦ない。「Moon Song」という曲ではエリック・クラプトンに喧嘩を売る一方(“「ティアーズ・イン・ヘヴン」は嫌い/だけど彼の息子が死んだのは残念”)、大好きなビートルズのメンバーにも言及している(“ジョン・レノンについて議論しているうちに/涙が出てきた”)――そして、研ぎ澄まされた稀代のソングライターとして名前が挙がるような胸焦がす悲恋の歌を書いている。こうした歌詞の裏には、まぎれもなく複雑な感情が見え隠れする。「昔からずっと、典型的なロックが嫌いだった」と、彼女本人も昨年こう認めている。「でもニール・ヤングの世界観を知ったら、ものすごく好きになった」

フィービーのファンにしてみれば、彼女の『サタデー・ナイト・ライブ』のパフォーマンスはスーパーボウル級の出来事だった。あの瞬間こそ、彼女が地味なインディーズの秀作と茶目っ気たっぷりに皮肉を利かせた個性を、全米最多のオーディエンスに全国放送で披露した瞬間だった。ロックでは昔から行われている伝統を体現しつつ、それを華麗に覆す、厚かましくも可笑しい行為だった。それ以外はたいして見ごたえのない放送で(素晴らしき司会者ダン・レヴィーにはもっとましなコントをやらせるべきだ)、あの瞬間は称賛すべき場面であり、あからさまな差別で揶揄するべきではない。

フィービーはInstagramにこう綴っている。「パフォーマンスについて素敵なフィードバックももらったわ! 次は火をつけるだけにする。それももっと高いギターをね」

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Translated by Akiko Kato

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