映画『ヤクザと家族』藤井道人監督が語る、義理人情の尊さと「FAMILIA」MV制作秘話

―本作の主題歌、millennium parade「FAMILIA」のMVも監督が撮っていますね。

去年の10月から12月下旬まで『新聞記者』のNetflixのドラマの撮影に入っていて時間が全然なかったんですが、(綾野)剛さんと常田君が「撮るっしょ」「藤井ちゃんじゃないと、これ締まんないでしょ」ってけしかけてきて(笑)。で、なるほどって言って、ドラマの撮影直後、12月28日、29日っていう本当ド年末にこの作品を撮ったんです。

ー(笑)。

本作を観た常田君が書き下ろしてくれた曲なんで、その曲をまた映像に戻すにはヤクザと家族のアフターストーリー、もしくはアナザーストーリーにしたいっていうところがスタートだったんです。実はこのMVのクリエイティブエンドロールを見ると、常田君と剛さんと僕とクリエイティブディレクターの佐々木集君が4人入ってるんです。剛さんが「アーティストの名前にもあるパレード、葬式、野辺送り‥‥そういうものが延々と歩いているワンカットでもいいよね」って、フワッと言ったのが、実はこのクリエイティブのスタート地点だったんです。埋葬するっていうパレードをmillennium paradeらしくどうやろうかみたいな話から始まったんです。で、僕ともう一人の共同監督の有光で、普通にやると時代劇みたいになるけど、どうしようか?っていう時に、透明な箱の中から煙が出ているクリエイティブなビジュアルを作ってみたんです。そこから色んなものを足して、間引いて、最終的に撮影の2週間前ぐらいにあの形になりました。もうヘロヘロだったんですが、でもこの映画は常田君の曲でちゃんと帰着する映画になってるなと思っていて。逆にあの音楽を聴いていいなと思った人達がまたミュージックビデオを見て映画を追体験してもらえるなって。本当はもう一回映画観てって言うべきなんでしょうが、もう1回130分の映画を観るの結構キツイと思うんですよ。僕もあんまり2回は同じ映画を観ないタイプだし。4分でもいいからこの映画のことを忘れないでほしいみたいな仕掛けにもなればいいなっていうので、あのストーリーになりました。



―監督はミュージックビデオもたくさん手がけていますが、映画と音楽もMVというジャンルを通してどんどん融合しつつある。「FAMILIA」の映像には新しい何かが生み出されるワクワク感がありました。

MVってアーティストのものだなって謙遜しちゃう部分がすごくあったんです。でも今回発注されたMVに対しては、「原作者はあなたなんで」みたいな気持ちでディレクションできたんです。僕がゼロイチで作ったものに対して、常田君もゼロイチを作っている。それを足して100にする。そういうアプローチにはできたなと思っていて。常田君も徹底して「いや、俺はMVには出なくていいっしょ」って。普通スケベ心であるじゃないですか?

―普通は出たがります。

好きなアーティストのMVってその本人が出てるだけで見れちゃうから、僕は出てほしいと思ってたんですが、常田君は「いやノイズになるから、いいっしょ俺出なくて」の一点張りでした。棺桶を担ぐ役で出せばよかったなって今になって思うんですけど、純粋に作品のこと考えてくれて出なかったですね。

―あくまでも映画の続編、アナザーストーリーと捉えてくださったと。

そうしてくれましたね。だから逆にクリエイティブもそこまでしっかり固まって、映画の出演者に出てほしいって言ったら、みんな出演を快諾してくれました。年末の撮影時も磯村(勇斗)は富士の裾野で2時ぐらいまで撮影してたのに、5時にこっち入ってくれて、そこからずーっと棺桶を担いでくれたんです。すごく良いチームで良いもの撮ったなって思いましたね。

―クサイ話かもしれませんが、それこそ義理人情の話ですね。

いっちー(市原隼人)も、「道人に言われたら行くしかないよ」ってドラマの合間を縫って来てくれた。そういうのが映画業界というか、我々の世代はまだ確実に存在してるんだなって実感できましたね。

―最後の質問になりますが、MVも映画本編も、最後のシーンで主人公が少し笑っているように感じました。主人公・山本賢治は幸せだったと監督自身は思いますか?

と、演出しているつもりです。思い残すことはない、自分の命が誰かのために少しでも使えるなら生きてて良かったって、誰かに肯定されたような気持ちになった山本賢治で終わりたいなという風に思っていて。で、僕自身もそう思って生きています。自分には何もないけど、自分の映画に救われたり、自分が何かをしたことで他人がどうにかなってくれるのは嬉しいことです。そういうものが映画でもMVでもちゃんと出てくれたら嬉しいなと思いながら撮りました。

―今コロナで、出会った人たちがセックスするか問題があります。セックスは濃厚接触になるので。でも本当に好きなならセックスをすべきだと思う。愛のためなら命を落とすって言ったら大袈裟ですけど、感染するかどうかのリスクの計算じゃなく、本当に愛おしいかどうかが問われている時代なのかなと思いました。

確かに今の人達、どうしてるんですかね?

―それも含めてこの映画では本当にたくさんのことが問われていると思いましたし、次回作も期待しています。

まだ詳細は言えないんですが、次もゆかりのあるアーティストが音楽を全部書いてくれています。次は恋愛映画なんですけど、かなり良い感じになってると思いますので、楽しみにしてていてください。


藤井道人
1986 年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010 年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014年)でデビュー。 以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、など精力的に作品を発表。 2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞 3 部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。新作映画、『ヤクザと家族 The Family』2021年1月29日より公開。



『ヤクザと家族 The Family』
配給:スターサンズ/KADOKAWA
大ヒット上映中
(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

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