細野晴臣の50年間に及ぶルーツ ノンフィクション本とともに読み解く



田家:この曲を選ばれたのは?

門間:これはトロピカル三部作という、細野さんがエキゾチックサウンドに移行した中の代表曲の一つだとは思うんですが、ここで細野さんの音楽性がはっぴいえんどのロックからシンガーソングライター、ニューオリンズの要素を取り入れたものに変わるわけですよね。ここでエキゾチックサウンドに移行していったことが、やはり非常に大きな飛躍だったなと思っています。

田家:どんな話が訊けたらと思われていたんですか。

門間:この時代の細野さんの心の動きがどういうものだったのかは、今回取材が進める中でのいくつかある大きなテーマの一つで。なぜここまで音楽性を大きく変遷させることができたのかということについて、なかなか理解し難いところもあるわけですよね。実際、ティン・パン・アレーの林立夫さんや鈴木茂さんにお話を伺うと、お二人ともやはりついていけなかったと仰っていたので。ここは僕も理解しないと書けないなと思ったところです。

田家:325ページに、細野さんの『泰安洋行』についての言葉がありまして「あれは100%狂気の世界ですね」と、ご自分でも語っていらっしゃいますね。

門間:田家さんもリアルタイムで聴かれていたと思います。

田家:面白いアルバムだなと思いましたね。僕はミュージシャンではないので、林立夫さんや鈴木茂さんみたいに、自分たちの音楽と違うものが出てきたという感じはなかったですけど、やっぱりどこに行っちゃうんだろう? という感覚はありましたよ。

門間:一緒に音楽を作っている仲間とは共通のものを見て、そこに向かって進んでいたと思いきや、この時期は細野さんが一人で作りながら孤立を深めていくようなことをされていて。それは、実はその後のYMOの結成とつながる重要なターニングポイントになっているんですよね。

田家:『泰安洋行』について、確かにそうだった思ったのが、228ページに「大滝の『ナイアガラムーン』と細野の『泰安洋行』はほとんど対になって生まれた」という部分で。こういうことも客観的に踏まえながらお書きになっているのが、とても目から鱗な部分もありましたよ。

門間:ニューオリンズの音楽を如何に消化して、自分の音楽にするかということを同時にお二人がされていて。ただ、出来上がったものの根っこは通じているかもしれないけど、聴き比べると別の音楽でもありますよね。そこが大滝さんと細野さんの個性が表れていて面白いと思います。

田家:当時の大滝さんのファンは細野さんの音楽をあまり聴かないとか、逆に細野さんのファンは大滝さんって何をやってるだろう? と見ていることもあったように思いますし。そして、『泰安洋行』の後に皆逃げちゃったという細野さんの話もありました。『泰安洋行』のあと、細野さんが過換気症候群を再発したということもお書きになっていた。

門間:細野さんが精神的に追い詰められるところまでいかれたというのが、その後の音楽の変化にも現れているし、取材をしていく上で細野さんの音楽というものが細野さん自身の心であったり生き方といかに密接だったかというのが分かった気がします。

Rolling Stone Japan 編集部

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