Gotchが語るシーンの越境から手に入れたもの、音楽を未来につなぐためのトライアル

Gotch(Photo by 山川哲矢)


「個の力」が音楽を変える

―仕上がったサウンドは、最終的にはひとつのバンドっぽいですよね。でも、曲ごとに違う人が手掛けているのがわかる。その分業体制はラップミュージックの作り方とも似ているのかもしれませんね。

Gotch:あと、ひとつ考えていたのは、なるべく生音に近い質感で録りたいということ。打ち込みっぽいエディットをやりすぎると、演奏者の記名性が剥がれちゃうんですよ。トム・ミッシュとユセフ・デイズのアルバム『What Kinda Music』は、ドラムの音像のバランスがとても良くて、ヒントになった作品のひとつです。あんなふうにmabanuaやビートさとし(skillkills)の演奏を収録できたらいいなって。人間味を消さないようにエディットや差し替えも最小限にしてやっています。



―演奏のキャラクターが残るように意図してやったと。

Gotch:ジャズの人たちの音楽の作り方は参考になりますよね。ここ数年、改めて個の力が浮き彫りになっているというか、上手い人やユニークな人たちしか残れなくなっていて。自分もシンガーとして、それを頭の片隅に置いておかないと乗り遅れるし、残っていけない危機感もありました。西田修大くんや石若駿くん、新井和輝くん(King Gnu)、CRCK/LCKSとか。あの界隈を見てもわかるとおり、若い人たちは演奏が上手いことがデフォルトですよね。その上でどんな特別さを持っているのかが重要なんだなと。そういうことを意識して音楽を作っていくと、(必然的に)コレクティヴ的になってしまうというか。自分のやりたいことのために特別な人をピックアップしていくと、コレクティヴに向かっていきますよね。

―前作まではジョン・マッケンタイア(トータス)、もしくはクリス・ウォラ(元デス・キャブ・フォー・キューティー)といったエンジニアやプロデューサーがいたからだと思うんですけど、サウンドが全体的に同じトーンになっていたと思うんです。でも、今作はかなり生バンドっぽい。音も太くて生々しい。何か参照したものはありますか?

Gotch:ピーター・コットンテイルやブラストラックスのフィーリング、ハイムやブレイク・ミルズ界隈の音の配置は参考になりました。特にリヴァーブの敷き方ですね。あとはアラバマ・シェイクスの作品でショーン・エヴァレットがやっている、「生々しいものをどれだけ生々しく録るか」みたいなエンジニア・ワーク。彼はハイムにも関わってますよね。あの辺の界隈で起きている面白い音には注目していました。

一緒にエンジニアリングを手伝ってくれた古賀(健一)くんには、とにかくエンジニア的なやり方で均さないでほしいというか、野球で言ったらグラウンドにトンボかけるようなことはしたくないって伝えていました。変なところは変なまま残したいと。アメリカの音はどこかに触ってないところや整頓されてないところが用意されていて、そこが作品のチャームポイントになっている。日本だとその部分にまで鉋(かんな)をかけがちだから、それをやめたいって話をしました。





―それと今作ではYasei Collectiveのベーシスト、中西道彦さんが参加しているのも大きな変化ですよね。

Gotch:ミチくんは何年か前にもライブで弾いてもらっているし、the chef cooks meでもベースを弾いてるから、シモリョーからの繋がりですね。最近はYasei Collectiveの10周年イベントに客演で呼んでもらったりして、近しい距離にいると感じています。ミチくんの参加はかなり大きいです。譜面も読めるし、読んだとおりに弾けるし、圧倒的な技術で支えてくれていて、スペシャルな信頼を置いてます。

―中西さんもそうですけど、今作はエレキベースとシンセベースの両方を使っていて、そのなかでもシンセベースの割合がかなり多いのが印象的でした。

Gotch:最近はエレキベースの扱いが難しいと思い始めているんです。いまの音楽は音域的に使いたい帯域が低いほうに広がったので、ベースがシンセだと楽なんですよ。シンセだと音の重心を下げられるから、他の楽器の中域の表現力がものすごく上がって色んなことができるようになる。J-POPの音源を注意深く聴いていると、歌が細くなる理由はベースの音域が上ずっていて、他の音が中域から押し出されて行くからだと感じるんです。ミックスの順番的に歌が上に押し出されていく。空いてるところが高域しかないからカエルみたいな声になってしまう。弦を弾くエレキベースだと倍音がいっぱいあって、意図しない膨れ方をしたり、そこをどう抑えるのかっていうエンジニアリングの問題になって、コントロールが難しい。そういう意味で、シンセベースはコントロールがしやすいんですよね。

ジャズのミュージシャンのライブを観ていると、オクターバー(元音のオクターブ下の音を発生させて加えるエフェクター)を使っていて、高いフレットに行くときは低域を足したり上手にやっていますよね。ベースの音域についての考え方が、いろんな音楽で変わってきているのを感じます。シンセベースの可能性は、まだまだこれから広がるはず。それにベーシストがもっと自由になるかもしれないなとも思う。シンセベースがコントラバスみたいな低い位置を引き受けて、エレキベースがチェロ的な位置で動けば、サンダーキャットの6弦ベースみたいにずっとリードを弾くような役割になっていくかもしれない。


中西道彦がエレキベース(左)とシンセベース(右)を演奏する動画

―中西さんのベースとmabanuaさんやビートさとしさんのドラムの組み合わせによる、レイドバックしたグルーヴもこれまでとの大きな違いになっています。

Gotch:ジャズやR&Bといったアフリカン・アメリカンの音楽をよくわかっていて、解釈的にいろんなことができるミチくんが入ったことで音楽が変わりましたよね。ロックではない風が入りました。

―そうやってリズムセクションが変われば、必然的にアレンジ全体も変わってくる。

Gotch:ミチくんの演奏への信頼があったので、鍵盤など他の楽器も自由に組めたと思うんですよ。井上くんもギターが本当に上手いから、こっちでジョキジョキにチョップして新しいフレーズを作ってもそれが再現できる。ベーシックの3人(井上、mabanua、中西)の演奏に対しての信頼が、今回は特に厚いです。どんなことを指定してもやれるでしょ、みたいな感じですね。

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