Gotchが語るシーンの越境から手に入れたもの、音楽を未来につなぐためのトライアル

Gotch(Photo by 山川哲矢)

Gotchこと後藤正文による3rdアルバム『Lives By The Sea』が昨年12月のデジタル配信に続き、3月3日にLP/CDでリリースされた。ASIAN KUNG-FU GENERATIONでの活動も含めて、これまでのキャリアで国や世代、ジャンルの壁を超えて「人と人の繋がり」を広げてきた過程を振り返るべく、今作のLP/CDには「後藤正文を巡るアーティスト相関図」が封入されている。Gotchはどのような思いでニューアルバムを完成させたのか。新作のテーマとサウンド面の変化、コレクティヴから生まれた化学反応、カルチャーにまつわる問題意識について語ってもらった。聞き手は今作のライナーノーツを執筆した柳樂光隆。


―2014年の『Can’t Be Forever Young』と2016年の『Good New Times』は繋がりがある感じがしたんですが、ニューアルバムは一気に飛躍して違う文脈にある気もします。いかがですか?

Gotch:楽曲だけを見るとあまり関連性がないと思うかもしれないけど、サウンドデザインには繋がりがあります。1枚目からも多少はラップの要素は出てきていて、当時はベックを参照にしてやってましたけど、最近はラップミュージックがカジュアルになっていますよね。そこに自分の興味も強く移っていったので、(ベックのように)サンプリングしたジャンクなフォークやロックにラップを乗せる形ではなく、もう少ししっかりゴスペルのフィーリングみたいなものを取り入れて、さらにトラップとかを通過して、今作みたいな感じになってきました。ずっと同じ仲間とやってるので、現場で共有している演奏の課題や問題を発展させられてきているとは感じてますけどね。

―前の2作は「ロックの人がやるラップミュージック」という印象でした。例えば前作も、ヒップホップというよりは、ヒップホップにも通じるミニマルな、もしくはループで作られた音楽という感じだったと思います。それが本作はミニマルでループの音楽ではありつつ、そこに明確にヒップホップやR&Bの要素が前景化しているように思いました。

Gotch:メイン・アレンジャーとしてのシモリョー(the chef cooks meの下村亮介)や、mabanuaのテイストがこれまでよりも出ている作品ではありますよね。それにここ何年かは、チャンス・ザ・ラッパーやジャミーラ・ウッズとか、シカゴ周辺のコレクティブの関係性やフィーリングが豊かに見えていて。ゴスペルやチャーチの音楽の信仰に根差したフィーリングが心地いいとも思っているんですよね。そこにある静かな時間というか。神みたいな存在に向かって焦って祈る人はいないから、性急ではないんですよね。僕はキリスト教徒ではないけど、そういう静かな性質によって穏やかな気持ちになっていくんです。

後藤さんが2020年に選んだ年間ベストにも、チャンス・ザ・ラッパー周りのピーター・コットンテールが入ってました。あのコミュニティのどういうポイントが気に入っていますか?

Gotch:仲間をフックアップし合っている様とか、関係性がすごく有機的に見えるんですよね。コロナになってから痛感しますけど、理想的な繋がりですよね。シカゴだけじゃなくて、例えばKing Gnuとか石若駿くんとかにしたって、あの界隈にも似たような繋がりを感じるというか。気の合う集団で仕事を作っている彼らによって、いろんなところで生まれている音楽がどれも違うベクトルで、どれも面白い。音楽だけじゃなくて、「人と人の繋がり」があるのも今風でいいなと思います。


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