未だ謎多きUKバンド、ジャンゴ・ジャンゴが「音楽のモンスター」になるまでの物語

ぼくらの音楽はどこにも属せない

—あと先述のDJセットで、ティミー・トーマスの「Why Can’t We Live Together」(邦題:かなわぬ想い)をかけていたのも印象的でした。シャーデーもカバーした1972年のメロウ・クラシックで、人気コンピシリーズ『Late Night Tales』のジャンゴ・ジャンゴ編(2014年)でもこの曲を収録していましたよね。

デイヴ:スコットランドのガレージセールでレコードを手に入れたんだ。家に帰ってレコードをかけた途端、心を掴まれたのを覚えているよ。すごくエモーショナルな曲だし、なにせプロダクションが最高。ジャンゴ・ジャンゴで曲作りをするうえでも影響を受けてるね。特に「Love’s Dart」だとか、1stアルバムのいくつかの曲。すごくシンプルなのにパワフルで、それが本当に自分に刺さったというか。「自分のなかで一番重要なレコードは?」と聞かれたらすぐに頭に浮かぶ作品のひとつだし、今でもDJでよくかけるんだ。



—あの曲はリズムボックスと電子オルガンによる最小限の伴奏が素晴らしいですよね。最新アルバムに収録された「Free From Gravity」にも通じるところがあるように感じました。

デイヴ:そうだね。やっぱり反復的なプロダクション、それに加えてあえて古いドラムマシーンとかキーボードを使うのが好きなんだ。クリアすぎない、味のある擦れた音みたいなのが気に入っていて、わざとジャンクな機材をたくさん使ってる。曲のメッセージのシンプルさも通じる部分かもしれない。シンプルだけど温かみがあって、ヴォーカルのパフォーマンスに真実味があるような。

—「Free From Gravity」は、「地球がメチャクチャになって出て行かざるを得なくなる状況」についての曲だと聞きました。

デイヴ:アルバムを作っていた時はまさに世界が混乱の真っ只中で、先行きが見えずにすべてが狂っていくような感じがしていた。気候変動や企業化だとかたくさんの問題があって、どこにいても安全じゃないような。だからこの惑星から飛び出して、戻る必要なんてないんじゃないかって考えが頭によぎった。ミュージックビデオに出てくる小さなエイリアンは、そのアイデアを代弁してくれているんだ。

遠いところから来た彼は、最後には地球を離れる。地球という惑星がクソだってことに気づいたからさ(笑)。あんまり住み良いところじゃないってね。そして彼はぼくと違って、気に入らない場所から自由に飛び出してどこにでもいけるんだ。だからこれはファンタジーだけど、もしも彼と同じようにその力があったら、君はこの地球を離れてどこか別の場所へ行きたいか?って問いかけでもあるんだ。



—これは褒め言葉のつもりですが、ジャンゴ・ジャンゴはデビュー当初からずっと変わったバンドだなと思っています。よく言われませんか? 

デイヴ:ハハハ、その通りだよ。ぼくらはどこにもうまく馴染めないんだ。10代のときに音楽をはじめて、自分の部屋にドラムセットを買ったときからそれは感じていた。趣味嗜好がとっ散らかっていて、テクノもピンク・フロイドもビートルズもパブリック・エネミーも同じくらい好きだったし、今もそのどこにも属せない感じがバンドに出ている。それは意識せずともそうなってしまうというか。本当に自分でも自分がわからないくらい、どんな音楽も聴くから、いつかはフォークにハマるかもしれないし、ロカビリーばかりを聴くなんて時期だってくるかもしれない。だからプロダクションのスタイルもずっと流動的だし、それは自分でもうまくコントロールできないんだ。

実際、一緒にやっているバンドメンバーの好みもバラバラだしね。ヴィニー(Vo)はロカビリーや正統派のロックンロールが好きだし、トミー(Key)は変わったシンセミュージックとかサウンドトラックをよく聴いてる。ジミー(Ba)はニック・ドレイクとかフォークが好きなんだ。そんなぼくらが一緒に音楽をやったら、それはおかしなものが出来上がるし、きっとどこにもうまくハマることができない。でも、ぼくらはそれでいいと思ってるんだ。

—本当に今更ですけど、どういう音楽をやろうと思って結成したんですか。

デイヴ:たしか最初は、ビートルズっぽいのをやろうって言ってたんだ。ぼくとヴィニーの共通点がビートルズ好きってことだったからね。あとはストーン・ローゼズ、プライマル・スクリームとか、アンドリュー・ウェザオールみたいなのもいいだとか話をしていたはず。だけどスタジオに入ってみて――もっとも実際のスタジオではなくて、自分の部屋のコンピューターの前にみんなで集まっていただけなんだけど、いざ曲を作ろうとすると、全員の方向性があまりに違いすぎて全然まとまらかった。

—そうでしょうね(笑)。

デイヴ:結局どうしてそうなったかはわからないけど、とりあえずギターはソニックスっぽいのがいいとか、各々が好きなことを言い出して。そこら中に転がっていたレコードの山の中からパートごとにまったく別のバンドの音をあてはめていったら、最終的につぎはぎだらけのフランケンシュタインみたいな音楽が誕生したんだよね。そこから次々と直感的に異なるアプローチを試していって、音楽のモンスターがどんどん生まれるようになった(笑)。

Translated by bacteria_kun

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