ジュリアン・ベイカーが学び続ける理由 現代最高峰のソングライターが語る紆余曲折

ジュリアン・ベイカー(Photo by Alysse Gafkjen)

ジュリアン・ベイカーの3rdアルバム『Little Oblivions』が好評を博している。大学へ復帰して断酒にも取り組んだ彼女は、最新アルバムに初めてフルバンドのサウンドを持ち込んだ。今日のUSインディーを代表するシンガーソングライターが、人生の紆余曲折から学んだこととは?

ジュリアン・ベイカーは言葉を止めた。「ごめんなさい。どうして私は、大学論文の脚注のことなんかをあなたに説明しているのかしら」と、ふと我に返ったかのようだった。

ベイカーが完全に学生モードへ切り替えてジャズや「言語の主観性」などについて語っているのも、全く納得がいく。25歳のシンガーソングライターは最近、ステージ上にいるよりも教室にいる時間の方が圧倒的に多かったからだ。2019年、3年に渡りノンストップで続けてきたツアー生活に疲れ切った彼女は、別の個人的な問題もあり、ミュージシャンとしての活動を一時休止してミドルテネシー州立大学で学業に専念すると決めた。「オースティン・シティ・リミッツ(音楽フェス)をキャンセルして、大学へ戻った」と彼女は言う。

ベイカーは、クラスメートに囲まれて授業を受ける生活に戻れてホッとしていた。クラスメートらは、たとえ彼女が過去5年間で最も賞賛され評価を受けているインディーシンガーソングライターであると承知していても、気軽に付き合ってくれた。「完全に頭を切り替えて、文学や音楽や言語を勉強する日常に戻ることができた。ミュージシャンとしての立場や自分自身が築いた実績などとは、無縁の世界だった」と彼女は言う。「皆に嫌われるイヤな人間に成り下がりそうだったから、私にとっては本当に良かった。でも私は学校が大好きで、学校では図書館に通うような生活を送れた」



2019年12月に卒業したベイカーは地元メンフィスのスタジオへ直行し、3枚目のソロアルバムのレコーディングに取り掛かった。2021年2月にリリースされた『Little Oblivions』は、これまでの作品の中で最もポップで手の込んだアルバムであると同時に、彼女のありのままをさらけ出した作品だと言える。

『Sprained Ankle』(2015年)と『Turn Out The Lights』(2017年)の2枚のアルバムが信念やアイデンティティ、メンタルヘルスの問題をテーマにしていたのに対して、この3rdアルバムはより肉体的なところに根ざしている。新しい楽曲には、肉体やブラックアウトやアルコールや血が溢れ、ほとんどは寝室やバーで起きそうな出来事が描かれている。しかし今回のアルバムで最も注目すべきは、楽曲の大半にドラムがフィーチャーされている点だろう。

初のフルバンドによるアルバムが世俗的な事柄にフォーカスしているのも、偶然ではない。独力でアルバムをプロデュースしたベイカーは、新たにロックの分野にも取り組み、この2年間で彼女自身が経験した報いや更生を歌っている。例えば「Relative Fiction」は、いつもの暗く静かなバラードから、ドラムをきっかけにスリリングなポップコーラスへと展開していく。“救いなんかいらない/とにかく家へ帰らせて”と、バンドのサウンドをバックに彼女は歌う。


Translated by Smokva Tokyo

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