ジュリアン・ベイカーが学び続ける理由 現代最高峰のソングライターが語る紆余曲折

変化を求めたサウンド、変わることのない軸

彼女自身も認める通り、人生は常に勉強だ。彼女はその教訓を自分自身に当てはめると同時に、周囲との関係やより広い社会との繋がりにも適用しようと努力してきた。「自分自身の気に入らない点を、他人の中に見出して軽蔑するのは簡単だ」と彼女は言う。「好きではない自分を他人に見立てて嫌うのも、有効な手段。そして対処する必要もない」

2019年の春と初夏には、予定されていたフェスティバルへ出演した。ところが7月後半から8月初旬にかけて、ヨーロッパでのフェスティバル出演をキャンセルし始めた。当時の公式発表によると、「治療のため」とされていた。7月は、『Little Oblivions』に収録するための残りの楽曲を書いた。3rdアルバムは「2019年の自分を集約したような内容」だという。

今回のアルバム制作では初めて、一連のデモテープを作成し、アレンジメントを変え、スタジオ入りする前に1年以上かけて曲を練った。大学を卒業したばかりのベイカーはアルバム制作のプロセスを、「強い感情が自然とあふれ出て、詩になる。詩は、静かに落ち着いた心の中から生まれるものだ」というウィリアム・ワーズワースの言葉になぞらえた。言葉の前半が最初の2枚のアルバムを指すとすれば、彼女曰く『Little Oblivions』は、ワーズワースの後半の言葉通りに生まれた初めての作品になる。

2019年8月までにベイカーは、学位取得のためテネシー州マーフリーズボロへ戻った。2016年に学業を中断した時は、卒業までわずか1学期を残すのみだった。

大学を卒業してスタジオへ戻った彼女は、フルバンドによるアルバムを作ってみたくなったという。しかし同時に、アルバムの中には静かなソロパートも散りばめた。急激なサウンドの変化によって誤解を招くのを避けたかったからだ。「“私はバンドの一員よ。ペダルボードにディストーションを組み込まねばならないの”、という感じを前面に出したくなかった」と彼女は言う。「ディストーションを使うのは構わないけれど、ギミックに聞こえるのは嫌。ただ曲作りにドラムを加えた程度に聞こえるのが理想だった」


「Late Night with Seth Meyers」での演奏

『Little Oblivions』はベイカーが高校時代に組んでいたハードコア風バンド、フォリスターの影響を随所に感じさせる。「あの頃のエネルギーが懐かしい」と彼女は言う。「仲間内だけだが、また激しい曲をやるのは楽しいし、ハッピーな気分になる!」

ベイカーにはまた別のハッピーの源がある。新たに家族として迎えた犬のビーンズだ(将来的に2匹目を飼う時は、コーンブレッドと名付けるつもりだという)。「里親の仲間入りをした」と彼女は言う。しばらくすると、彼女の犬がじゃれつき始めた。「この犬はとても声が大きいの。ビーンズ、黙りなさい!」

ある意味でラッキーだったが、特に個人的なレベルで2020年は自宅でのプライベートな時間が取れた。彼女はまず、学校へ復帰することで安定感を求めた。「強制的にスローダウンさせられた状況に感謝している」とベイカーは言う。この半年間は、友人の生まれたばかりの赤ん坊を見に出かけたり、ビーンズと遊んだり、近所を散策したりして過ごした。しかし、内省傾向の強いシンガーソングライターによくあるように、彼女にも信念がある。

「私は注意深い。その方が聞こえがいいから。自分で“これが正しい”と思えるものを見つけるための究極の手段などない」と彼女は言う。「概念的なものから離れて肉体的な経験に移行し、存在感を出そうと努力することが大切だと思う」

ベイカーは再び自分の言葉を振り返る。「“存在感”と口にした時に、私は変なジェスチャーをしたわね。なぜそうしたかは分からない。自分の肉体の中に存在するのは、完全に自然で健全なことよ」

From Rolling Stone US.




ジュリアン・ベイカー
『Little Oblivions』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11514

Translated by Smokva Tokyo

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