Netflix『ノトーリアス・B.I.G. –伝えたいこと–』知られざる生身の姿で綴るドキュメンタリー

Biggie Smalls George DuBose/Courtesy of Netflix

Netflixで公開中のドキュメンタリー『ノトーリアス・B.I.G. –伝えたいこと–』は、ノトーリアス・B.I.G.という存在、そして彼を取り巻く人々が登場した背景に焦点を当てている。

ノトーリアス・B.I.G.が生きていたならば、彼はスマートフォンについてどう思うだろうか。Netfllixで公開中のドキュメンタリー『ノトーリアス・B.I.G. –伝えたいこと–』の主役であるニューヨーク生まれのラッパーは、カムコーダーを愛してやまなかった。本作の前半で、彼の旧友であるDamion “D-Roc” Butlerは、コンサート会場でオーディエンスを撮影する方法をビギーから教わったと語る。その成果として残された映像は、ヒップホップの黄金時代のリアルな記録であり、その歴史上最も影響力のある人物の1人である彼のヴィジョンを雄弁に物語っている。現在の基準からすれば、画質の粗いアーカイブ映像は次々に登場する音楽ドキュメンタリーのトレードマークのようなものだが、本作におけるそれは必然性に満ちている。「ビッグ・ポッパ」から2パックとのビーフ、そして1997年の殺害に至るまで、ビギーの物語はこれまでに幾度となく語られ、我々の文化的想像物の一部として再パッケージされてきた。東海岸と西海岸の衝突という明快な構図は、ビギーの素顔を見えにくくしてしまっていた。『ノトーリアス・B.I.G. –伝えたいこと–』全編で見られるButlerの説得力に満ちたカムコーダー映像は、彼の物語において決定的に欠けていたものを見事に補っている。

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ホワイト・ストライプスのドキュメンタリーや数々のミュージックビデオの制作で知られるエメット・マロイが監督を務めた本作は、ビギーことクリストファー・ウォレスについての知られざる新事実を明らかにするようなものではない。本作で描かれる感情的な部分は、過去に数々の特番や映画で何度も取り上げられており、古い友人であるショーン・”P・ディディー”・コムズが感傷的になりながらビギーとの思い出について語る様子や、彼の母親のボレッタ・ウォレスが息子の訃報を耳にした時のことを振り返る場面は、90年代のヒップホップに明るい人々には馴染み深いはずだ。本作のユニークな点は、ビギーがブルックリンで過ごした幼少期と、スターダムを謳歌した日々の狭間に焦点を当てている点だ。彼の生涯のハイライトとされる出来事にはほとんど触れず、彼のより人間味を感じさせる部分にフォーカスしている。アーティストとしての彼が形成される上で決定的な役割を果たしたジャマイカに住む家族や、ビギーの自宅のすぐ近所で暮らしていたジャズミュージシャンで、幼い頃に彼の才能を見抜いて様々なアートに触れる機会を与えたドナルド・ハリソン等が語るエピソードは新鮮だ。ハリソンがビギーのライムに対するユニークな視点と、自身のジャズドラムのカデンツを比較するシーンの直後には、彼が伝説的ドラマーのマックス・ローチのソロに合わせてラップする映像が挿入される。

Translated by Masaaki Yoshida

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