蓮沼執太が振り返る「自分の場所を作ってきた」15年の歩み、フィルで音楽を奏でることの意味

蓮沼執太、フィルのリハーサル時(Photo by Takehiro Goto)

4月23日、蓮沼執太フィルがBukamuraオーチャードホールで単独公演「○→○」を開催する。蓮沼にとって2021年は、デビューから15年という節目の年。ソロからチーム、フィル、さらにはフルフィルと、これまで時期によって編成を変化させてきたが、その節目には必ず重要なライブがあり、そこに向けてチャレンジをすることによって、蓮沼のキャリアは築かれて行ったと言っても過言ではない。そこで今回は、フィルにとっての新たなシーズンの始まりとなるであろうオーチャードホール公演を前に、ライブを軸にして15年の歩みを振り返ってもらった。その歴史を改めて追うと、彼の作り出す音楽はもちろん、集団としてのあり方の変遷自体が、時代の変化を映し出しているようにも感じられる。

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―蓮沼さんは今年デビュー15周年なんですよね。

蓮沼:そうなんですか?

―2016年10月に1stアルバム『Shuta Hasunuma』が出ているので。でも、そういうことを気にするタイプではないですよね。

蓮沼:何をもってデビューかというのもありますよね。人によっては、メジャーデビューから数えたりもすると思うんですけど、僕はすごく抽象的にスタートしてるので。

―『Shuta Hasunuma』はMySpaceに楽曲をアップしていたのをきっかけに、アメリカのインディレーベルWestern Vinylからリリースされた作品でした。その後に「音楽で食べて行くぞ」みたいなタイミングはあったんですか?

蓮沼:全然ありません。実際にバイトをせずに音楽だけやるようになったのは20代半ばくらいです。でも「僕は音楽で食ってる!」みたいな感覚は未だにないですね。



―その都度「やりたいこと/やるべきこと」をやってきた結果だとも言えると思うし、一方で、いわゆる音楽業界のシステムとかルールに乗っかることに対して違和感を持っていたのかなとも思うのですが。

蓮沼:両側面あると思います。アートでも音楽でも、どんな業界でもそうだと思うんですけど、自分にとって居心地がいいかというとそうではなくて、ましてやポップスの世界は、組織で動いてるようなシステムなので。僕みたいにオルタナティヴというか、インディペンデントで活動してる作家は、長く続ければ続けるほど活動するのが大変になっていって、ほとんどやめていきますからね。フィルのメンバーみたいにライブ演奏で活躍されたり、作曲している人たちももちろんいますけど、僕と同い年くらいでいま活動している方のほとんどはメジャーに入って、ストラテジーを立てて活動してる人が多い印象です。そこと意図的に距離を取ってきたわけではないけど、たまたまその中には僕はいないという感じではありますね。

―長く同じ場所で活動を続けて、組織が大きくなると、それを維持することが目的になって、純粋な表現やクリエイティブから離れて行ってしまうことが往々にしてあると思うんですけど、蓮沼さんは時期ごとにいろんなレーベルからリリースをしていて、風通しの良さを保っていますよね。もちろん、それがゆえの苦労もあるとは思うのですが。

蓮沼:レコード会社が今より力を持っていた時代は、何年契約・何枚契約で出していくことがステータスになっていた。もちろん、それは今でもあると思うんですけど、僕は最初からそういう機会もなかったし、ひとつの作品を作り上げることが大切なので、ショットでリリースしていくことを逆手に取って、自分のやりたいようにやる場所を作ってきたというか。でもやっぱり、CDやレコードを作って、流通させることは、一人ではできないことなので、みなさんの力が大きく必要ですね。

―リリースによってレコード会社/レーベルが変わることの欠点をあえて言うと、キャリアの道筋がやや見えにくくなることだと思うんですけど……。

蓮沼:いばらの道ですね(笑)。

―でも、蓮沼さんの場合はリリースとライブを中心にキャリアが構築されているというよりは、展覧会やインスタレーション、楽曲提供など、そもそも活動の幅が広いですよね。別のインタビューで「ディスクガイドが嫌い」とおっしゃってるのを見かけて、それはアルバム単位の評価だけじゃなくて、もっとキャリア全体を見た上での評価軸があってもいいのではないか、という発想にも受け取れると思ったのですが。

蓮沼:大前提に、僕は自分のキャリア、見え方を一切気にしてないですね(笑)。僕のような活動のプロセスを評価してくれたらもちろん嬉しいですけど、ディスクガイドのことはもっとシンプルで、そういうのを見るよりも、自分で探したいっていうだけですね。何なら失敗したときの方が、経験値も高いと思うんです。今はディスクガイドもしっかり読みますけど、そもそもは「知らないものと出会う」ということが面白いと感じていて、最初に知識の塊があり、その中から「これを聴こう」じゃなくて、「もっと世界は広いんだから」手当たり次第経験してどんどん失敗していこう、みたいな考え方だったんですよね(笑)。

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