インコグニートのブルーイが語る、ブリット・ファンクとアシッド・ジャズの真実

ブリット・ファンクの象徴、ライト・オブ・ザ・ワールドとは?

―ブリット・ファンクといえば、あなたも参加していたライト・オブ・ザ・ワールド(以下、LOTW)も大きな役割を果たしていたと思います。

ブルーイ:その通りだね。

―インコグニートに比べて、このバンドについてはあまり聞かれないと思うので、どういう経緯で関わることになったのか聞かせてください。

ブルーイ:僕は1979年の1stアルバム『Light of the World』に参加した創立メンバーだった。2ndアルバム『Round Trip』になると半分が初期メンバー、もう半分が第2期のメンバーで、アメリカのプロデューサー(オージー・ジョンソン)と一緒に制作された。そして、LAの有名なセッション・ミュージシャンも参加している(ボビー・ライル、ウェイン・ヘンダーソン、ヴィクター・フェルドマンなど)。それに比べると1stアルバムはもっとリアルで、あまり洗練されていない作品だっだ。

僕はその後、LOTWの2作に参加していたポール“タブス”ウィリアムズ(Ba)と一緒にインコグニートを結成した。ピーター・ハインズ(Key)も加入してくれた。彼はアトモスフィアを始めとする多くのプロジェクトに参加していて、他の誰よりもブリット・ファンクの曲をプレイしてきたミュージシャンだと思う。ピーターはSTR4TAにも参加しているよ。


ライト・オブ・ザ・ワールドのシングル「Time (Remix) / I’m So Happy」(1980年)



―LOTWはブリット・ファンクの中で、どのような存在だったのでしょう?

ブルーイ:メディアの話に戻るけど、『The Sounds』や『Melody Maker』といった(昔からの)雑誌は、ジャズのムーブメントに一応触れてはいたけど、扱っていたのはジョン・マクラフリンのようなフュージョン寄りの音楽家たちで、「踊る」ためではなく「聴く」ためのジャズを掲載していた。目を閉じて、自分の世界に入り込むようなジャズだね。そういう音楽に合わせて人々は踊らない。ブリット・ファンクのムーブメントは、フュージョンのサウンドを含みながらも、音楽の焦点はその音で踊れるかどうかだった。

LOTWにとっての師匠は、ロイ・エアーズやブラックバーズ、ドナルド・バード。僕らはそういったサウンドの自分たちのバージョンを作ろうとしていた。最初の頃は、ブラックバーズの「Rock Creek Park」をリハーサルで1時間ずっと演奏したりしていたしね。他のフュージョン・レコードと今挙げた面々によるレコードの違いは、素晴らしいフュージョン奏者もフィーチャーしつつ、グルーヴからは決して離れないところだね。なぜなら、彼らがダンスを意識していたからさ。ヒップホップで機能する理由もそこにある。あの反復が人々を躍らせるんだよ。




ブルーイ:LOTWはその反復を用いながら、そこにソロやジャズの自由さを取り入れた音楽を作っていた。曲の中でミュージシャンが色々と試せるようにね。個人的にはそれがLOTWの魅力だった。僕は12歳の時からバンドで演奏していたから、LOTWに携わるまでのあいだに多くのバンドを経験していたけど、LOTWで初めてムーブメントを作り出し、その一員であることを経験したんだ。ハイテンションと同様、LOTWやセントラル・ラインの存在はすごく大きかったんだよ。

LOTWはドナルド・バードのようなリアルなブラック・エナジーに力を入れていて、チャートに入ることよりも、自分たちがより満足できるレコードを作り出すことが最優先だった。そして、その後に生まれたのがインコグニートの音楽では、ジャズの自由さをさらに強く取り込んでいった。LOTWにもその要素はあったけど、それはせいぜい8小節から16小節に限られていた。でもインコグニートはもっと自由で、オープンでクレイジーなソロを大々的にフィーチャーし、そこからより広い世界へ旅することができた。それに、メンバーも男性に限らなかった。インコグニートの音楽は、ジョセリン・ブラウンやチャカ・カーンの方向にも進化していって、ジャズ、ファンク、そしてハウス・ミュージックとどんどん扉を開けていったからね。

それができたのはあの時代、僕がずっとDJのそばにいたから。DJが動けば、僕も彼らと一緒に動いていた。当時はDJが最高の音楽を映し出す鏡だったから。でも、クラブに行って踊っていたのは僕だけだったのを覚えてる。他のメンバーたちは、ただプレイして、レコードを聴いているだけだった。彼らは僕のようにDJにつきまとい、彼らが何をプレイしているかを探ろうとまではしていなかった。僕はメモ帳を片手に「このレコードは何? B面はなんて曲?」なんて聞きながらDJを追い回していたよ(笑)。


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