大滝詠一の楽曲に隠された変態的リズムとは? 鳥居真道が徹底考察

音楽とダンスが不可分であることから、ある種の音楽は音を使って物体の運動を表現しているとかねてより考えていました。ダンスミュージックは音自体が踊ってなくてはならないというのが私の持論です。音楽が歩行という動作を模して出来上がったとするのなら、音楽を聴きながら歩いてみるのは理に適っていて自然なことのように思えます。それで、歩きづらければ歩きづらいほど、不自然で複雑であると。

『ロンバケ』のなかで「我が心のピンボール」や「FUN×4」は拍子に合わせて歩くことはそこまで難しくないと思われます。では「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」はどうか。なかなか難しそうではありませんか。まずイントロで提示されているリズムは、4/4拍子であるとわかりやすく明示するものではありません。このリズムは、ニューオーリンズのセカンドラインと呼ばれるものです。キューバ音楽のクラーベ(3-2クラーベ)にスイングする感覚を付与したものだと言って差し支えないでしょう。「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」はセカンドラインほどハネていません。



「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」で、特に複雑なのはAメロの部分。リズム隊の演奏に注目してみましょう。ドラム、ベースがともに1拍目のオモテ拍が休符になっています。これはけっこう際どいリズムです。

ジェームス・ブラウンがファンクの秘訣は1拍目にありと言ったことは有名な話です。いわゆる「オン・ザ・ワン」。「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」のAメロ部分は、JBが重要視するところのワンが不在です。この部分を聴きながら拍子に合わせて歩こうとすれば、1拍目の8分休符めがけて足を踏み出さなくてはなりません。これがなかなか大変です。非常にトリッキー。

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