大滝詠一の楽曲に隠された変態的リズムとは? 鳥居真道が徹底考察

最後に突如として私的変態リズムもののマスターピースを数曲ご紹介します。

まずラヴ・アンリミテッド・オーケストラの「Blues Concert」。バリー・ホワイト関連作は変態リズムものの宝庫ですが、この曲は白眉。イントロからして拍子が取りづらい。イントロが明けてからも際どいリズムです。だまし絵を観ているかのような心持ちになります。気持ち悪いのが気持ち良い。

続いてスヌープ・ドッグの「Beautiful」。プロデュースは言わずもがなネプチューンズであります。絶対にバックビート叩かない系のトラックです。そういう意味では「Velvet Motel」の仲間と言えましょう。ネプチューンズの作品はバックビートのものも多いのですが、リズムパターンの組み立て方がとてもユニークなので、バックビートがバックビートに聴こえないことがよくあります。

次に取り上げるのは、ファレルも敬愛してやまないプリンスがプロデュースした作品。ザ・タイムの「777-9311」です。Linn LM-1のビートから始まりギターが加わった時点で、どこかでオモテでウラなのか混乱します。ハットの乱れ打ちが入ってようやく小節ド頭に16分休符が入っていることに気が付きます。これも不在のワンの1種であります。

続きまして、ニューヨークのボーカルグループ、パースエイダーズ。甘茶ソウルとして紹介されることが多いのですが、アレンジがとにかく奇怪なため、その味わいはとても複雑となっています。アルバム『Thin Line Between Love And Hate』の「Mr. Sunshine」は特に不思議。ボーカルとオケの関係は図と地のようになりがちです。パースエイダーズのアレンジは両者が絡み合っていて不可分です。そのためリズムの観点から言っても謎に満ちています。キメとビートがまだら状になっているといったら良いでしょうか。そうしたギミックの凝り方は「君は天然色」に近いかもしれません。

ネプチューンズを紹介しておいて、ティンバランドを出さないわけにはいかない。変態リズムものの大家であります。私が海外の音楽を聴き始めたころに、デスティニーズ・チャイルドの「Get On The Bus」のような倍テンとハーフをワンループのなかで行ったり来たりするようなリズムのビートが流行していました。その頃はいわゆるラウド系に傾倒する眉毛の細い中学生だったので、ネプチューンズやティンバランド関連作を聴くのはもっと後のことでした。





鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12 
クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
Vol.13 ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」に出てくる例のリフ、鳥居真道が徹底考察
Vol.14 ストーンズとカンのドラムから考える現代のリズム 鳥居真道が徹底考察
Vol.15 音楽がもたらす享楽とは何か? 鳥居真道がJBに感じる「ブロウ・ユア・マインド感覚」
Vol.16 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“あの曲”に仕掛けられたリズム展開 鳥居真道が考察
Vol.17 現代はハーフタイムが覇権を握っている時代? 鳥居真道がトラップのビートを徹底考察
Vol.18 裏拍と表拍が織りなす奇っ怪なリズム、ルーファス代表曲を鳥居真道が徹底考察
Vol.19 DAWと人による奇跡的なアンサンブル 鳥居真道が徹底考察
Vol.20 ロス・ビッチョスが持つクンビアとロックのフレンドリーな関係 鳥居真道が考察
Vol.21 ソウルの幕の内弁当アルバムとは? アーロン・フレイザーのアルバムを鳥居真道が徹底解説

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