笑いと涙、受難と希望 小林うてなの数奇な音楽人生

「暗い青春」を終わらせた
ライブハウスや仲間との出会い

―学生時代のうてなさんはどんな感じだったんですか? 今はポジティブでフリーダムな雰囲気ですけど、さっきの趣味を聞くと……。

Utena 暗そうってことでしょ(笑)。昔はザ・陰キャでした。小学生の頃の口癖は「ありがとう」。親にも「あんないい子だったのに」と言われるくらい周囲に気を遣う子でした。ドッチボールとか怖いし、スポーツできないから外でも遊ばないし、休み時間は本を読んでいたい派だし。リコーダーが好きだったので音楽の部活動に没頭してましたね。


Photo by Mitsuru Nishimura

―その後は?

Utena 中学生の頃は、ショートカットにして男勝りな感じ。恋愛しないで吹奏楽部に打ち込み、マリンバも習い始めて。そこから高校生になると……さらに吹奏楽(笑)。大学時代はメチャクチャ上下関係が厳しくて、1年生の頃はほとんど先輩の楽器を運ぶだけ。「代わりに持ちます!」みたいな。

―ストイックな日々だった。

Utena そうですね。小学生の頃ほど暗くはなかったけど、みんなでワイワイはできないというか。大人になるまでの自分は「文化祭とかで楽しめない」タイプ。本当に自由な気持ちになれたのは……ここ数年かな。大学を辞めて、ライブハウスに行き始めたのが大きくて。

―セーラー服おじさんに衝撃を受けたそうですね。

Utena そうそう、安穂野香さん! U.F.O.CLUB(東高円寺)で観たような。同時期に観た知り合いのバンドも「マジ? 超適当じゃん」みたいな感じで(笑)。そこから「音楽ってこんなに自由で楽しいんだ!」と思えるようになったんです。

―それまでは窮屈だった?

Utena ずっと音楽は好きだけど、クラシックの勉強には馴染めなくて。高校生までは大会やコンクールに出るのは楽しかったけど、音大で学ぶ環境になると、ひとつの曲に対しての反復練習が凄まじいので、楽譜を正確に読み解こうと言われても「ベートーヴェンはもういないし、真意はわからんくない?」みたいな。「この楽器で食べていけるのかな」という不安もあったし。

―そんな息苦しさからライブハウスが救ってくれた。

Utena 全部ぶち壊してくれましたね。でもそう考えると、20代半ばくらいはヘンな大人たちに囲まれてたな(笑)。渋谷の7th floorでずっと働いてたんですけど、そこの店長に「ブッキングが空いたから出て」と言われて、鬼の右腕というバンドを始めたんですよ。そこから自分でもライブするようになり、サポートでも呼ばれるようになって。いろんな人たちとスティールパンを演奏してきたことが今に繋がってますね。



―僕がうてなさんを知ったきっかけはD.A.N.のサポートでした。彼らとの出会いは?

Utena (櫻木)大悟が蓮沼執太フィルの演奏を観てたのかな。たまたま彼らの出演イベントに遊びに行ったら、「僕たちD.A.N.です、音源聴いてください!」と話しかけられたので「へー、可愛いね」って(笑)。聴いたらすごくよくて、すぐに連絡しました。(サポートを)離れた時期もあったけど、そこから絆も戻ったし。今は本当にいい関係だと思う。



―蓮沼さんと関わるようになったのは?

Utena とあるミュージシャンのサポートをしたら、ゴンドウ(トモヒコ)さんが観にきていて、そこから「道との遭遇」というイベントに誘っていただいて。とんでもないミュージシャンと突然交われることになって、「もし変なことしたら音楽界を追放される!」と死ぬ気で練習しました(笑)。その時に蓮沼さんも出演していて、みたいな流れだったはず。



―2018年にはermhoiさん、ジュリア・ショートリードさんと3人でBlack Boboiを結成しています。彼女たちにはどんなシンパシーを抱いていますか?

Utena 2人の思考回路はいい意味でぶっ飛んでるので、シンパシーとかはわかりませんが(笑)、音楽制作においては、3人の選択がボボイの音楽という大きな器によって導かれている感覚ですかね?



―ボボイもそうだし、鬼の右腕も女性だけで結成されたバンドでした。自分が女性であることは、音楽をやるうえで重要なことだと言えそうですか?

Utena そういうの忘れてた。

―あらら(笑)。

Utena 言われて思い出したのは、20代前半の頃は「女」と思われたくなくて、テクニックで見返すつもりで音楽やってました。でもある時に「ワシは女だしなー」となって、そこからは「気にしなーい」という感じで、考えることすら忘れてましたけど……昔は意識してましたね。今は全然気にならない。

―かたやD.A.N.は男性トリオだし、両方の世界に出入りしてきたことも今の話と関係あるんですかね。

Utena そうかもしれない。男性は論理的に考えたり、研究心が強いのでものすごく深いところまで行ける。逆に女性は柔軟性が高いから、音楽じゃないところに脱線しやすい。それがデメリットのように見えて、実はメリットでもあるんですよね。男子だったらスタジオにいる時「この前のあれ聴いた?」みたいな感じだけど、女子は「昨日ご飯食べたところがさ~」とか話したりして(笑)。個人的にはどっちもいいところがあるよねー、みたいな感じかな。

Text by Hiroyoshi Tomite

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