笑いと涙、受難と希望 小林うてなの数奇な音楽人生

Utena Kobayashi(Photo by Mitsuru Nishimura)

撮影中も無邪気に笑い、ユーモラスに動き回る小林うてな。近年の音楽シーンにおいて、ここまで強烈な個性はそう見当たらない。スティールパン奏者として蓮沼執太フィル、D.A.N.、KID FRESINOなどに携わり、3人組エレクトロ・ユニット「Black Boboi」の一員としても活躍。学生時代に打楽器を学びつつ、音大在学中からDTMによる作曲活動にも取り組み、Utena Kobayashi名義のニューアルバム『6 roads』では壮大かつ神秘的なストーリーを展開している。ソロ活動での制作テーマは「希望のある受難・笑いながら泣く」。その背景には濃密なヒューマンドラマがあった。

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昨年は3カ月連続でEPリリース。2020年リリースのEP『Fenghuang』収録曲「fai」


ルーツは「神聖なサウンド」
濃厚すぎる音楽の原体験

―ステキな髪色。「赤くなったんでよろぴ~す」とツイートしてましたね。

Utena とにかくエクステをつけたかったんですよ。アニメっぽい髪型で面白そうだと思って。そしたら美容師さんから「赤とかいいんじゃない?」と薦められたので、じゃあ行っちゃおうと。そういうノリ。

―アニメや漫画も好きなんですか?

Utena 一番好きな漫画は『HUNTER×HUNTER』なんですけど、コロナで時間がたくさんあったから『ONE PIECE』を読んでみたんですよ。なんじゃこりゃスンゲェと思って(笑)。昨年のEP3作に、今回のアルバムまで出せたのは尾田先生のおかげです。

―どういうことですか(笑)。

Utena 「物語ってスゴっ!」となったんですよ。尾田先生はずっと描き続けながら伏線を回収してるじゃないですか。音楽で起承転結を描くのはなかなか難しいけど、ストーリーがあればそれができる。そんなふうに曲と物語を連動させていく発想は『ONE PIECE』に感化されています。


Photo by Mitsuru Nishimura

―アルバムの物語もインパクトがありましたが、うてなさん自身も濃い人生を歩んでそうですね。幼少期の音楽体験とか気になります。

Utena お兄ちゃんと一緒にずっとMTVを観ていました。お兄ちゃんはすごい音楽好きで、気になるアーティストが見つかったらティッシュ箱にメモするんですよ。そこからCDを買ったりして。

―メモの取り方(笑)。

Utena 貪欲ですよね。私はお兄ちゃんが持ってるCDを聴いたり、MTVを観たりして。その中でも響いたものだけが今も(自分の中に)残ってる感じです。一番印象に残っているのはコールドカット「Timber」のMV。サビの「パーヤ、パッパッ」と女性コーラスが入ってくるところで、子供ながらに神聖な気持ちになって。未だにそれが原体験としてこびりついています。



―現在の音楽性にも反映されていますよね。その後も「神聖なサウンド」を掘り下げていった?

Utena 高校生の頃は映画『アイズ ワイド シャット』が大好きで、儀式のシーンで流れる「ドゥル~」って声に興奮して、そこだけMDに録音したりしました(笑)。大学(音大の打楽器科)に通っていた頃は宗教音楽をよく聴いてましたね。

―ワールドミュージックも好きだったそうで。

Utena そうそう、中学生の頃から好きですね、『image』(イマージュ)がメチャ好きで。

―癒し系コンピレーションですよね、懐かしい。

Utena 『image』は最強。今でもたまに聴き返しますよ。聴いた瞬間に景色が切り替わるあの感覚、VRっぽくないですか。「石の神殿にいるのかな?」みたいな。あとは大学で民族音楽を勉強しつつ、プログレやアンビエントにもハマったり。(フランク・)ザッパとかマッツ&モルガンみたいなテクニカル系も好きでした。



―ドイツのメタルバンド、ラムシュタインもお気に入りだとか。どこが好き?

Utena かっこいい。強そう。

―そりゃそうですけど(笑)。

Utena メタルをエンタメにしていますよね。火を吹くために資格(パイロ技師)も取ってたりするし。メタル自体は全然ハマらなかったけど、ちょっとプログレっぽい感じとか、ドイツ語の響きがよかったのかも。そういえば最初、「ドイツのミスチルだよ」って教えてもらったのを思い出しました(笑)。

Text by Hiroyoshi Tomite

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