Smerzとermhoiが語る、ジャンル横断が当たり前になった時代のクリエイティブ論

ものづくりの驚き、終わりのない発見

若林:先ほどジャンルの横断についてお話されていましたが、それなのにスメーツの音楽は、ひとつの世界や音のトーンでまとまっているように感じるんです。

アンリエット:今回、出来上がった素材を聴いた時に、舞台や演劇を観ているように感じたんです。自分たちが伝えたいものに物語性を感じたので、ひとつのジャンルに絞れるような表現ではないな、というのがまずひとつありました。なので、このアルバムでは、リスナーに異なるステージやシーンをひとつひとつ体験してもらって、それらを経て何かに辿り着くような物語を伝えたかったんです。

カタリーナ:そのうえで、「悲しみ」「嬉しさ」「幸せ」といったものを直接的に伝えると、嘘っぽくなってしまうと思うんですね。でも、コンピューターを使ったものづくりでは、コンピューターが処理して出てきたものに「こんな表現があるんだ」という驚き、意外性があるんです。また、異なるジャンルのものを組み合わせて作ると、特定のジャンルにはない意外性が生まれる。私たちは、そういうやり方のほうが、共感できたり、感情を込められたり、人間くささがあったり、リスナーに訴えかけるものができたりするんじゃないかなと思っています。

アンリエット:カタリーナが言ったメソッドは、曲の構成にも使えます。たとえば、「音楽を犯罪小説のテンプレートに当てはめたら面白いのでは?」という発想から曲を構成することもあるんです。



ermhoi:今のお話は、共感するところがすごくいっぱいありますね。コンピューターから出てきたものに対する驚き、ということについては、私もそれを楽しみながら音楽を作っているんです。たとえば、声をピッチシフトさせると、サンプルレートの設定によっては声がブツブツと途切れることがあって、それが逆に面白かったり。あと、エフェクターの重ね方によって、意図しなかった響きになることが面白かったり。私、ズボラなので(笑)。適当に編集してみて、面白い効果になったなと満足して、それをそのまま使うことはよくあります。

アンリエット:ermhoiさんがおっしゃったことには共感しますね。「ズボラ」とおっしゃっていましたけど、「ここ」とピンポイントを目指して作るのではなくて、ざっくり作ったものをカタリーナに投げることで、自分とは異なる部分が作動して面白いものが出てくることは、たしかにあるんです。



小熊:スメーツのお2人は、どういうところで通じ合って一緒に音楽をやっているんですか?

カタリーナ:たくさんありますが、自分が何をしようとしているのかを理解してくれるところですね。目指しているところはあるんだけれど、それが形になっていなくて、作業がうまくいっていないときに、説明しづらいことを理解してくれて一緒に進めてくれたり、手伝ってくれたり、新しい方向に導いてくれたり。2人だけが通じ合う阿吽の呼吸があるんです。あとは、やっぱり相手のやったことが刺激になること。アンリエットが作ったものの中には、思ってもみなかったものがあるんです。それに反応することで、また新しいことが起こる可能性が増えていきますね。

アンリエット:私は、ふたつあります。ひとつは、自分が安心して、自由にものを作れる共通点が2人の間にあること。もうひとつは、カタリーナが作るものの中に驚きや意外性があること。そこがすごくいいんです。

若林:お話を聞いていると、音楽を作ることでゴールを目指しているというよりは、制作自体が終わりのない発見のプロセスだと感じました。音楽を作ることにおいては、新しい自分や新しい何かを見つけていく感覚が強いのでしょうか?

カタリーナ:その通りですし、それは音楽を作るうえですごく大事にしている部分でもあります。今作っているものには、これまでと共通する部分も違う部分もありますし、これまで作ってきたものへの自然な反応から生まれた部分もあると思います。継続的に進化し続けるものなので、そこから外れるものもあれば取り入れていくものもあって、少しずつ形になっていくのかなと。

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