österreich初ワンマン、高橋國光が戦友たちと提示した「新たなポップスのスタンダード」

高橋國光(Photo by Kana Tarumi)

4月30日、österreich(オストライヒ)がワンマンライブ「四肢の文脈」を無観客で開催し、生配信が行われた。この日はösterreichにとって初のワンマンというだけでなく、高橋國光にとって音楽人生初のワンマンライブ。緊急事態宣言の発令に伴い、中止の可能性もあったが、高橋の希望で急遽配信ライブへと切り替え、本番を迎えたことが最後のMCで明かされている。

【画像を見る】österreich「四肢の文脈」ライブ写真(記事未掲載カットあり:全16点)

ボーカルの飯田瑞規(cinema staff)と鎌野愛、ベースの三島想平(cinema staff / peelingwards)、ドラムのGOTO(DALLJUB STEP CLUB)、ピアノの佐藤航(Gecko & Tokage Parade)、ヴァイオリンの須原杏というお馴染みの面々をバンドに迎えたこの日は、曲間に高橋の朗読を挟みながら、物語性の高いステージを展開。フィードバックノイズからバンドサウンドへとなだれ込むオープニングを経て、序盤は鎌野がボーカルを務める「映画」「贅沢な骨」を続けていく。音大のオペラ専攻を修了し、ハイスイノナサを経て、現在はソロやサポートなどで幅広く活躍する鎌野は、そのノーブルな存在感が際立つ。


飯田瑞規(Photo by Kana Tarumi)


鎌野愛(Photo by Kana Tarumi)

österreichの楽曲は歌を中心に据えつつも、複雑な拍子やキメ、展開が多分に含まれていてアヴァンポップの要素が強く、そのアンサンブルはいわゆる「ロックバンド」とは一線を画す、非常に緻密なもの。バンマス的な役割の三島の存在も大きいが、自身のバンドDALLJUB STEP CLUBではビートミュージックを生演奏するGOTOによる、抑制が効きながらもアグレッシブなプレイがグルーヴの軸を担っていて、そこにピアノやヴァイオリンがミニマルミュージックやクラシック的な意匠を加えることで、ドラマチックな世界が作られている。イヤモニもしつつ、メンバーそれぞれが細かくリズムを刻みながら、高い集中力でアンサンブルを構築していることが、画面の中からはっきりと伝わってくる。


GOTO(Photo by Kana Tarumi)


三島想平(Photo by Kana Tarumi)


佐藤航(Photo by Kana Tarumi)


須原杏(Photo by Kana Tarumi)

続いては飯田とともにゲストボーカルの紺野メイがステージに立ち、「きみを連れてゆく」を披露。高橋と飯田がキンセラ兄弟に代表されるシカゴ産ポストロック直系のメランコリックなフレーズを奏で、紺野の無垢な歌声が楽曲を淡く色づける。SoundCloudにデモが公開されている「Question」も紺野がボーカルを務め、鎌野と異なるキャラクターを持った紺野は、これからもösterreichの楽曲で重要な役割を果たすことになりそうだ。


紺野メイ(Photo by Kana Tarumi)

ライブ中盤では再び鎌野がボーカルを務め、ともに7拍子を基調とした「caes」と「無能」を続ける。2015年に発表された「無能」はösterreichのレパートリーの中でももっとも難易度が高いと思われる一曲であり、演奏するメンバーからは緊張感も伝わるが、アウトロでヴァイオリン、ピアノ、クラップのみになったときに、指揮者のように手を動かす高橋の姿に目を奪われた。朗読時は黒縁メガネのナイーヴな文学青年といった趣もある高橋だが、やはりこのバンドのコンダクターは彼なのだということを、改めて印象付ける。

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