クレイジーな世界で予測不可能な音楽を生み出す、UKロック新世代「スクイッド」の方法論

スクイッド(Photo by Holly Whitaker)

イギリスの新人登竜門「BBC Sound of」2020年版にビーバドゥービーやアーロ・パークスなどと並んで選出。バトルスなどで知られる名門Warpと契約し、UKインディーロック新世代の大本命と目される5人組、スクイッドが待望のデビューアルバム『Bright Green Field』を発表した。

スクイッドは2015年にブライトンで結成。自分が初めて彼らを知ったのは、2019年の4曲入りEP『Town Centre』だった。「The Cleaner」はここ数年のトレンドである躁的なポストパンクの直系であるのに対し、「Savage」はジャズやアンビエント、もしくはポストロックに近い瞑想的な曲で、その極端な振り幅に戸惑ってしまったものだ。同年発表のシングル「Houseplants」はトーキング・ヘッズとキャプテン・ビーフハートを繋ぎ合わせたような楽曲だが、ここでもクラウトロック的な反復するビートと、暴れ狂うようなサックスがアクセントとして機能している。とにかく一筋縄ではいかないバンドであると理解していたので、実験精神を尊重してきたWarpとの契約は妙に納得してしまった。




そんな彼らにとって転機となったのが、ダン・キャリーの出会いだったという。今日のUKロックにおける最重要プロデューサーといっても過言ではないダンは、新しい才能を発掘・発信するDIYレーベル「Speedy Wunderground」の仕掛け人でもあり、そこからフォンテインズDC、ブラック・ミディなどを発掘してきた。スクイッドもまた同レーベルから音源を発表したのが飛躍のきっかけとなり、ダンへの信頼感は「6人目のメンバー」と語るほど。今回の『Bright Green Field』でも彼にプロデュースを依頼している。

今年1月、ダンと直接話をする機会があった。彼がサウスロンドンに構える自宅兼スタジオは、同地のシーンを育んできたライブハウス「The Windmill」から徒歩5分の場所にあるという(スクイッドも出演したことがある)。過去にはフランツ・フェルディナンドやカイリー・ミノーグのプロデュースを手がけ、近年は多くの新人をフックアップしてきたダンから見て、現在活躍しているニュージェネレーションは、それ以前のバンドとどこが違うのだろうか。彼はこんなふうに答えている。

「誰もやっていないことに挑戦することを躊躇わない。あとはストリーミングで聴くのが当たり前になっているから、とにかく幅広い音楽をジャンル関係なく聴きながら育っている」


ダン・キャリーを加えたスペシャル編成でのパフォーマンス映像

これはUKロックだけに限らない話だが、ジャンル融解がデフォルトとなった世界で「誰もやっていないこと」にトライすれば、そこから生まれる音楽はチャレンジングであればあるほど、既存の言葉やラベリングが追いつかないものになっていく。以前、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの取材に立ち会いながら実感させられたのは、作っている当人たちですら、自分たちの音楽について言い表す言葉を(たぶん)見つけられずにいることだ。それゆえに今日の音楽はスリリングで、メディア泣かせでもある。

スクイッドの場合はどうだろうか。中心人物の「歌うドラマー」ことオリー・ジャッジ (Dr,Vo)とアントン・ピアソン (Gt,Vo)に話を訊いた。


一番右がオリー・ジャッジ、左から2番目がアントン・ピアソン(Photo by Holly Whitaker)

―スクイッドというバンド名は、オリーがイカ(=Squid)を喉に詰まらせて死にかけた体験から名付けられた……と見かけたんですが。本当ですか?

オリー:本当でもあるし冗談でもある(笑)。実際にそういう経験をしたことはあるけど、それが理由でスクイッドと名乗るようになったわけではない。というか、実際の経緯をよく覚えていないんだ。だから作り話をしないといけない羽目になってるんだよ。聞かれるたびにジョークで違う話を言ってる(笑)。

アントン:もっと考えてバンド名をつければよかったよな(笑)。インタビューでこんなに由来を聞かれるなんて思ってもみなかったから。

―このバンドではそもそも、どういう音楽をやろうと思って結成したんですか。

アントン:最初はアンビンエントっぽいサウンドだったかな。すごくゆるい感じで演奏してた。目標なんか全然なかったし、自分たちのことをバンドとさえ思っていなかった。ただ一緒に音楽を演奏しているだけだったんだよ。アンビエントとジャズの間にポストロックの影響が入ったような、そんな感じだったね。


2016年のデビューシングル「Perfect Teeth」

―ニューアルバムの収録曲「Padding」にはクラウトロックからの影響を強く感じました。クラウトロックのどんなところに惹かれますか?

オリー:(ドラマーとして)個人的に思うのは、合わせてドラムを叩くのがすごく楽なところ(笑)。なにせ、ひとつのビートを曲の間中ずっと繰り返すだけだからね。あの曲を書き始めた時は、偶然にもバンド全員がそれぞれに僕がそれまで聴いたことのなかったクラウトロック・バンドを発見していた時期だった。その影響が曲に出てくるって自分たちでも面白いと思う。



―クラウトロックの存在はどのように発見したのでしょうか?

アントン:友達どうしで音楽をしていく中で発見したんだ。僕たちはよくお互いの家に行って、料理を作りながら自分たちが発見した音楽を聴いて、食べ終えたあとにジャムをやってた。真剣にやるというよりはカジュアルに楽しみながら演奏する感じ。その中でめちゃくちゃクレイジーな実験的音楽にハマった時期もあったんだ。さっきオリーがクラウトロックのドラムの魅力について話していたけど、僕も賛成。すごく美しくて催眠的なところからインスピレーションを受けたね。僕ら全員が興味深いと思ったし、自分たちの音楽にも取り入れるようになっていったんだ。




―たしかにノイ!のクラウス・ディンガー、カンのヤキ・リーべツァイトのドラムには、終わりも始まりもないリズムの反復があるように思います。機械のように反復しながら、身体性のあるグルーヴも感じさせる。

アントン:当時のドイツでみんなが求めていたのがそれだったよね。特にクラフトワークなんかの音楽には、当時のそういうモーションが特別な表現で映し出されている。その要素は、今の音楽にとっても未だに重要な要素だと思う。

オリー:ああいうリズムって、聴けば必ず踊りたくなるリズムだと思うんだ。僕たちは自分たちの音楽を聴きながら踊ってほしいと思っているから、それは大切な要素だね。

Translated by Miho Haraguchi

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