大滝詠一『NIAGARA MOON』のニューオーリンズ解釈 鳥居直道が徹底考察

ヴルフペックの限りなくレギュラーに近い準レギュラーであるところのコリー・ウォンは、右手の刻みは一定で左手でニュアンスをつけるのが吉と私たちにアドバイスをくれました。ウィルコもまったく同じことを言っています。右手はアップダウンするだけ。仕事は左手で、と。

ウィルコのギターはソリッドと形容されることが多いです。彼に影響を与えたミック・グリーン、彼から影響を受けたアベフトシ、アンディ・ギル、ポール・ウェラー(ザ・ジャム)の演奏はまさにソリッドという感じがしますが、ウィルコはニュアンスが豊かで甘い味わいがあると個人的には思っています。音価の長短で緩急がつけてリズムに深みをもたらしています。ウィルコ・ジョンソンのコピーを通じて、その後重要性を感じるようになるシンコペーション、音価に関する感覚を言語化する前に身体化していたように今となっては感じられます。

ウィルコのペンによる「The More I Give」は、曲そのものにもスイートな味わいがあります。ニューオーリンズが生んだ巨星トゥーサンの作風に近いものを感じます。例えば、ザ・バンドもカバーしたリー・ドーシーの「Holy Cow」、「楽しい夜ふかし」の元ネタのひとつであるアーニー・K・ドーの「Mother In Law」、アレックス・チルトンもカバーしたベニー・スペルマンの「Lipstick Traces」など。

いやしかし、『Loose Shoes And Tight Pussy』に収められたチルトン版の「Lipstick Traces」は何度聴いても素晴らしい。ウィルコと同様、チルトンのギターを聴く度にギターを歪ませてコードをジャカジャカ弾くことの気持ちよさを聴くたびに再確認します。『Loose Shoes And Tight Pussy』収録のエディ・フロイドをカバーした「I’ve Never Found A Girl」やブレントン・ウッドをカバーした「The Oogum BoogumSong」のギターなんてたまらないですよね。若干ウィルコっぽいと言えないこともない。

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