ポストジャンルの停滞を超える喜ばしき変化の予兆? 2021年1stクォーターを象徴する6曲

セイント・ヴィンセント(Photo by: Will Heath/NBC/NBCU Photo Bank via Getty Images)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年3月25日発売号の誌面に掲載された2021年1stクォーターを象徴するソング6選の記事。

ここにもし共通する何かがあるとすれば、大半の曲がどれもジャンル横断的なサウンドを持っているということ。2010年代というディケイドが果たした「ポストジャンル」という流れの果てに訪れたのはサウンドの画一化だったが、その停滞にもまた、喜ばしき変化が訪れようとしているのかもしれない。ラナ・デル・レイ、FKAツイッグス&ヘディ・ワン&フレッド・アゲイン、セイント・ヴィンセント、シルク・ソニック、ノー・ローム、アリアナ・グランデ――今聴くべき6曲を紹介しよう。

1. Lana Del Rey / Chemtrails Over The Country Club



2021年最初の3カ月におけるベストは間違いなくこの曲。TikTokを主戦場に蔓延するフック至上主義的な価値観に楯突く、どこにもフックらしいフックが見当たらないシンプルかつミニマルな曲構成。演奏は20世紀前半のジャズ。オングリッドなリニア・ビートでもなく、ディラビート的な揺らぎに拘泥するわけでもなく、低音至上主義にしなやかに別れを告げる、いまだ名付けられることのない斬新なプロダクション。レコードに針を落とした時のグリッチノイズを筆頭に、倍音混じりのアナログな音色を空間全体の中心に配置しつつ、ダイナミックレンジの広がりをしっかりと担保。20世紀前半アメリカ文化全般への過剰な偏愛が、誰も作りえなかった新たなサウンドを手に入れさせた。誰もが欲望を抑えながら暮らす自粛要請期間の真っ只中で「私は退屈していないし不幸でもない/今も奇妙でワイルドなまま」と艶かしく歌うこと。2010年代を通して誰もが政治的な正しさに向かう中、そこから取りこぼされていくアンモラルな欲望や官能性を表現してきた作家のひとつの到達点。


2. FKA twigs, Headie One, Fred again.. / Don’t Judge Me



英国を震源地に今再び刺激的なジャンルクロスオーバーが進行しつつあることを示す好サンプル。昨年2020年の主役のひとり、新世代UKドリルの覇者=ヘディ・ワンが、フレッド・ギヴソンとのダブル・ネーム名義でリリースしたミックステープ『GANG』ではインタールード扱いだった「Judge Me」を、客演扱いだったFKAツイッグスを前面に押し出し、新たにリリース。さりげないラテン風味のビートは、おそらくは共同プロデュースに名を連ねるスペイン人プロデューサー、エル・グインチョ――現在ではロザリアのプロデューサーとしての認知が一般的だが、2000年代後半に英国〈ヤング・タークス〉からリリースした3枚のアルバムが日本でも好意的に受け止められた――がリコンストラクトしたものだろう。FKAツイッグスやジェイミーxx、サンファとの共演という新たなクロスオーヴァーの象徴だった『GANG』の論理的発展。FKAツイッグス、ヘディ・ワンそれぞれの抑圧体験をトピックにしたリリックもまた、連帯の表明に他ならない。

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