桑原あい×シシド・カフカ対談 二人の音楽家が語る「挑戦」と「葛藤」

桑原あいとシシド・カフカ(Photo by Mitsuru Nishimura)

ジャズ・ピアニストの桑原あいが、通算10枚目にして初となる全編ソロ・ピアノ・アルバム『Opera』をリリースした。

クインシー・ジョーンズとの交流から生まれたという彼女のオリジナル曲「The Back」を除けば、収録された楽曲は全てカバー。昨年7月に逝去した映画音楽家エンニオ・モリコーネによる「ニュー・シネマ・パラダイス」や、ルーファス・ウェインライトの「Going To A Town」、エグベルト・ジスモンチの「Loro」など、様々なジャンルの楽曲を、ピアノ1台とは思えぬほどダイナミックかつ繊細な表現力でアレンジしている。さらにユニークなのは、カバーのうち5曲は、立川志の輔や平野啓一郎、社長 (SOIL& “PIMP” SESSIONS)ら、桑原と交流のある人たちがリクエストしていること。桑原曰く「自分では絶対に思いつかなかった」楽曲の数々を、彼女がどう料理しているのかも注目ポイントだ。

今回は本作屈指の「大ネタ」であるボン・ジョヴィの「Livin’ On A Prayer」をリクエストした、シシド・カフカと桑原の対談が実現。シシドはなぜこのロック名曲を選んだのか、桑原はどのような気持ちでアレンジに取り組んだのか。カバー曲に関してのエピソードはもちろん、ジャンルは違えど同じミュージシャンとして抱える葛藤、課題などについて率直に語り合ってもらった。

【画像を見る】桑原あい×シシド・カフカ 撮り下ろし写真(記事未掲載カットあり:全12点)

─もともとお二人は、どんなふうに知り合ったのですか?

桑原:私は元FRIED PRIDEのshihoさんとよく一緒にライブをしていて。あるときshihoさんから、「今日、カフカさん来てるからあいちゃん挨拶したら?」と言われてお会いしたのが最初です。横浜のMotion Blueでしたよね?

シシド:そう。shihoさんが「カフカさん、あいちゃんのピアノ絶対好きだから」って誘ってくれたんです。それでライブを観て、「なんだこれは!」と(笑)。とにかく力強いんですよ。「歌とピアノによるジャズライブ」と聞いていたから、想像していたのはしっとりした演奏だったんですけど、もう二人がバチバチにやり合っていて酒が進む進む(笑)。その場でCDを買うくらい魅せられたんですよね。こういう演奏を生で見られて本当に幸せだなと。そのときに初めてお話しさせてもらいました。


Photo by Mitsuru Nishimura

桑原:私がカフカさんを最初に認識したのは、確か図書館(チェコのストラホフ修道院図書館)でドラムを叩いている(プリッツの)CMだったと思うんですけど、そのイメージがずっと離れなくて。お会いした瞬間、「あ、あのシシド・カフカさんだ」って。もうミューズみたいで後光がさしていましたね。

シシド:あははは!

桑原:だから、最初にお会いした時は何を話したらいいんだろう……ってなっちゃいました。その後も何度かお話しさせてもらっているんですけど、プライベートなことは聞いたことがなくて。いまだに「朝ご飯とか何を食べてるんだろう、納豆とか食べるのかな?」と思っています。

シシド:納豆は今朝食べてきました(笑)。


Photo by Mitsuru Nishimura

─(笑)そんなカフカさんに、今回はご自身のアルバム『Opera』で1曲リクエストをお願いしたんですよね?

桑原:はい。以前、カフカさんのラジオ番組にお招きいただいたときに、カフカさんが「ボン・ジョヴィ好きなんだよね」っておっしゃっていたんですよ。私、あまりロックは通ってきていないんですけど、カフカさんのドラムを聴いていると、めちゃくちゃロックを感じるというか。「魂!!」って感じでほとばしっているんですよね(笑)。きっと私とは通ってきた音楽の道が違うだろうなと思ったし、そういう方がソロピアノのカバーとしてどんな曲をリクエストしてくださるのか興味が湧いたんです。それでお願いしたところ、ボン・ジョヴィを選んでくださったんです。

シシド:そうだったんだ! 私、ボン・ジョヴィの話をしたことも忘れていました(笑)。ちょっと前にSNSで「ボン・ジョヴィおじさん」の動画が流行ったのわかります? ロンドンの地下鉄で「Livin’ On A Prayer」を熱唱する黒人のおじさんがいて、いつの間にか居合わせた乗客や公園の利用客がシンガロングしていくという。それを見たときに「いいなあ」って。それだけ幅広い世代に知られた楽曲だし、曲自体もすごくいいし。

桑原:いい曲ですよね。





シシド:自分は作曲も編曲もしないので、ピアノでカバーするのにどんな曲がいいのかが全くわからなかったんです。3曲くらい候補を挙げたんですけど、中でもボン・ジョヴィは、あいちゃんの力強いピアノにハマるんじゃないかな、ガンガンに弾き倒してくれるんじゃないかなと思って選びました。

桑原:カフカさんの選曲と、山崎育三郎さんの選曲(GReeeeN「星影のエール」)がトップ2で難しかったです(笑)。どちらも自分だったら絶対に選ばない。だって「ソロ・ピアノ・アルバムを作りましょう」「カバーをやりましょう」ときて、「じゃあボン・ジョヴィ」とはならないじゃないですか(笑)。ものすごく挑戦しがいがあったし、やっていて楽しかったんですよね。リリースから1カ月が経ちますが、この曲の反響めちゃめちゃありますし。

シシド:本当ですか? それは良かった(笑)。

─レコーディングは、東京オペラシティ リサイタルホールで行ったそうですね。

桑原:(「Livin’ On〜」は)プレッシャーが凄くて「弾きたくないよ〜!」とわあわあ言いながら取り組んでいました(笑)。とにかく最初が肝なんです。左手でリフをキープしながら右手でメロディを弾くんですけど、この部分はmp(メゾピアノ)とp(ピアノ)の間くらいの強さで弾きたかったんです。そうすると、イントロは左手でppp(ピアニッシッシモ)くらいで弾かないといけなくて。しかも機械的には弾きたくなかったから、そのピアニシモの中で抑揚をつけつつ、右手でメロディを立てるっていう。

ピアノって、弱い打鍵で弾くのが一番難しいし体力使うんですよ。逆にff(フォルテッシモ)くらいの方が楽なんですよね。なので、レコーディングの時にテイクを重ねてしまうと弾けなくなっていくし、さらに邪念とかも入ってきそうだったので(笑)、とにかく早めにOKテイクを出さねばというプレッシャーがすごかった。その代わり、テーマを抜けてアドリブに入ったら「ウェーイ!」って弾けました。

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