桑原あい×シシド・カフカ対談 二人の音楽家が語る「挑戦」と「葛藤」

桑原あいとシシド・カフカ(Photo by Mitsuru Nishimura)


楽器との向き合い方、人生の岐路

シシド:このアルバム『Opera』は、あいちゃんのいろいろな面が見える作品ですよね。艶やかな曲もあれば、華やかな曲もあって。もちろん力強さもあったし、一発録りで仕上げていったということにも驚きました。ピアノも打楽器じゃないですか。しかも使っているのは指先で、ドラムとは体力の使い方も神経の研ぎ澄ませ方も全く違うでしょうから、そういうことを想像しながら「やっぱり、この人凄まじいな!」と思って聴いていました。

桑原:わあ、アーティスト目線の感想だ、嬉しい。そんなふうに初めて言われました。

シシド:ピアノって持ち運べないじゃないですか。きっと場所によって相性の良いピアノが置いてあったり、そうじゃなかったりもするんでしょうね?

桑原:そうなんです。あまり言いたくないけど、「ピアノ、かわいそうだなあ」って思っちゃうくらいメンテナンスが行き届いてないところも正直たくさんあるんですよ。でも、観にきてくださるお客さんのことを思うと、ピアノのせいにはできない、ピアニストの中には、ピアノのせいにしちゃう人もいるんですけどね(笑)。でも私は「そこにあるピアノをいかに好きになるか?」を大事にしていて。だからこそ、すごく相性の良いピアノに出会えるとものすごく嬉しいんですよね。

シシド:なるほどね。

桑原:それって、いろんな場所でいろんな人に会う感覚に似ているかも知れないです。世の中にはいろんな人がいて「ちょっとこの人、合わないな」と思ってもいいところを見つけたり、「この人、よく分からないな」と思う人のことを短時間でどれだけ知って、どれだけ良い部分を引き出せるかを考えたり。人と対話している感じに似ています。

シシド:ドラムもそういうところありますね。誰かがものすごくいい音で叩いているドラムを、私が叩いてみたら全然鳴らなかったりして。「ああ、私まだこの子とちゃんと対話ができてないな」って思う。そしたらそのドラマーが「俺も、このドラムとツアーを一周回ってようやくちゃんと鳴るようになったんだよね」って言っていて。

それってチューニング以外の要素もあるんですよね。叩く場所なのか、力加減なのか、その両方なのかも知れない。レコーディングの終盤になって、ようやくちゃんと鳴る時もあります。その場合はイチから再び録り直すことになるんだけど。

桑原:そうなりますよね(笑)。ポン、と叩いたときの鳴りが全然違う時もあるから、録り直さないと全体のバランスがおかしくなっちゃう。


Photo by Mitsuru Nishimura

─楽器に対しての愛情をすごく感じるのですが、それって人との付き合い方にも影響していますか?

桑原:どんなことでも、想像力が大事なのだなと思います。弾く人やメンテナンスの状態で、同じピアノでも全く違ってくるように、人もそれぞれ性格や価値観が全然違うから、自分の価値観を押し付けるのは絶対に違う。たとえ家族であっても他人ですし。やっぱり、「私はこう思っているんだけど」という余白をちゃんと残すようにはしたいです。何に対しても、誰に対しても、頭ごなしには絶対に否定したくないという気持ちはありますね。

実を言うと、昔の私はすごく怒りっぽくて。姉二人によく「昔だったら、こんなことがあったら絶対キレてたよね」なんて言われるんです(笑)。今思うとその頃の自分はすごく疲れていたんですよね。メンバーに対しても「なんでこれ弾けないの?」とか「なんで、ここ練習してこなかったん?」みたいに言ってたんです。「自分の音楽はこうあるべき」みたいな価値観に縛られていて、それを他人にも押し付けていたんですよね。でも、それって自分にも返ってくるので、疲れ果ててしまって曲が書けなくなったりして。


Photo by Mitsuru Nishimura

─そんなことがあったんですね。

桑原:そこからいろんな人と出会ったりしていく中で、すごく価値観が変わったんです。ピアノに対しても優しくなりました。それまではピアノともめちゃくちゃ喧嘩していましたからね。「この子をどうやって鳴らそう?」じゃなくて「私がこんなに頑張ってるんだから、ちゃんと鳴れよ!」って(笑)。でも、人に対してもピアノに対しても向き合い方が変わったら、本当に気持ちが楽になりました。レコーディングの時は、メンバーを信じると決めたし。

そうやって、自分を変化させてくれてありがとうという考え方に変わりました。そういう意味でも、人に対して、音楽に対して、ピアノに対しての考え方は、全部一緒に変化していっている気がします。カフカさんは、そういうターニングポイントみたいなものはありましたか?

カフカ:そうだなあ……髪を切った時ですかね。

桑原:え、それはいつですか?(笑)

シシド:2015年だったかな。とにかくそれまでの自分が、四角四面の考え方をしていたというか。あいちゃんじゃないけど、「こうじゃなきゃダメだ」みたいなこだわりがすごく強くて。慣れない事柄に対していつも憤りを感じていたし、自分に対しても憤りを感じていたんですよね。そういうのを手放したくなって。それで髪を切ったらものすごく心が楽になって、失恋して髪を切る人の気持ちも分かりましたね。

そこからいろんなことに対し、力を抜いて俯瞰で見ることの大切さ。「できないなら仕方ない、じゃあどうする?」というふうに発想を転換させたい。「やりたいこと」「できること」「向いていること」は全部違うし、それに対して納得できていなかった自分もいたのですが、そこに対してちゃんと「受け入れる」ことも出来るようになっていきましたね。本当に楽になったし、そこからよく笑うようにもなりました(笑)。

桑原:なるほど、髪の毛って大事ですよね。

シシド:そう、大事。でも実は髪をまた伸ばそうとしているので、性格もまた固くなっていくかもしれない!(笑)

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE