Official髭男dism「Cry Baby」に見る、めまぐるしい転調とダイナミックな物語

リズムの緩急がもたらすもの

うーむなるほど、聴いていてびっくりするポイントではある。けれども、もうひとつ個人的に、転調に加えておもしろいところがある。リズムの緩急のつけかただ。転調やコードチェンジがドラマをつくったり、あるいは引き立てたりすることはよく語られるところだ。けれどもリズムも同じくらい雄弁だ。

具体的に言うと、「Cry Baby」はスウィングする躍動感あふれるグルーヴに貫かれているけれども、それがふっと薄れ、あるいは途切れるところがある。どちらもBメロに相当する部分だ。

最初のBメロ(“いつも口喧嘩さえ~目が潤んだ”)の部分では、それまで力強くビートを刻んでいたピアノが流れるような和音と装飾的なメロディを奏で始める。それと同じくして、歌メロも三連符を多用してグルーヴ感を変えてゆく。メロディが刻むリズムは8分音符が中心となって、16分音符が出てくるときもあえてスウィングさせずにスクウェア寄りに流して歌っている。とはいえ、ベースとドラムは変わらずスウィングするグルーヴを叩き出していて、ピアノとヴォーカルのこうした変化はささやかなアクセント程度にも思えるかもしれない。

ただ間奏が明けて先程と同じモチーフが展開する、実質2度めのBメロと言える部分(“傘はいらないから~抉るような言葉を”)はもっとわかりやすい。というのも、バックの演奏ごと6/8拍子(もしくは、3連の4/4拍子)のバラード的なリズムを刻みだすからだ。拍子は違えど、前半の基本的なメロディの輪郭はほとんど同じ。とすれば、最初のBメロで聴かれたグルーヴ感の変化もはっきりと演出上の意図があったと考えるのが自然だろう。それだけじゃなく、先のBメロから比べて大きく変化する後半では、6/8拍子の上にスクウェアな8ビートのフィーリングがさらっとかぶせてある。「"よわねにおか"された"むねのお"くを"えぐるよ"うなことばを」という一連のフレーズのなかで、ダブルクォーテーション(“”)で囲った部分に注目すると、ここだけリズムの刻み方が6/8拍子(三連)と違うのがわかると思う。これによって、歌メロが楽曲のリズムと緊張感を保ちながら伸びやかに動き出すような印象が生まれている。

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