デイヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』、トーキング・ヘッズと人生哲学

デイヴィッド・バーン(Photo by Kyle Gustafson / For The Washington Post via Getty Images)


人間には「忘れてしまえる力」がある

―あなたのヒーローは誰ですか? それはなぜでしょう。

バーン:ブラジルのミュージシャンで、カエターノ・ヴェローゾという人物がいる。もうすっかり長い付き合いで、僕にとってメンターみたいな存在だ。彼が出たドキュメンタリー番組というのがあってね、基本的には彼が部屋に一人きりで、ブラジルの独裁政権下で起きた(1969年の)逮捕と投獄のことを語るという内容だ。そういった話題の中にも、彼自身が幾ばくかのユーモアを見出している点がとても興味深かった。そもそも彼に起こった出来事のうちのいくつかは非現実的ですらあるんだよ。ありがたいことに彼は拷問を受けたりまではしなかったんだが、番組中にはある種の笑顔を浮かべているとしか思えない場面もある。たぶんこんなふうに考えているんだろう。「こんな話はまったくバカげてる。非現実的だ。ただ愚かしい」って。でも、感動的で心に響くような話も出てくるよ。それから彼は、一握りのアーティストがそうであるように、常に自分のスタイルというものを刷新し、異なる種類の音楽を探究し、自分の音を生み出すのに違うやり方を試してみる人でもある。その姿勢が僕のインスピレーションになっているんだ。

―彼とは一度、「(Nothing But) Flowers」で共演していますよね。同曲には“昔は僕も怒れる若者だった”という歌詞が出てきます。過去の物事を振り払って前に進み続けることで、どんなことを学んできましたか?

バーン:それほど目も当てられないようなことをやってきたつもりはないが、でも確かに過去にやってしまったことで、今となっては恥じ入りたくなるようなものはたくさんある。最善の決断だったとは呼べないような事がね。自分で書いてきた曲の中にも明らかにほかの曲ほどよくないものというのはあるし、ステージやツアー、それ以外でも同様だ。「全部がちゃんとできてるわけじゃないな」って思うことはしばしばある。

だから僕は、自分の記憶力が不完全であること、そして、あらゆる人々の記憶力というのが、やはり同様に不完全であることを、神に感謝しなくちゃならないんだなと思うようになった。その不完全さが僕らを許し、自分たちのしたことを忘れさせてくれるのだから。それゆえ僕らはまた成長し、変化し、そうやって当時とは違う人間になることもできるわけだ。「忘れてしまえる力」があることを神に感謝しなくてはね。


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―多くのファンがトーキング・ヘッズ時代のあなたを思い続けているようです。彼らが前へ進むためのアドバイスはありますか?

バーン:人生においては特別な時期というのが存在する。大概は10代の後半から20代の前半にかけての頃だ。それはわかっている。自分自身を創りあげていく時間だ。世界とどう関わるのか、他人とどう関わるのかといったことだね。そして、その時期には音楽というのがとても重要な役割を果たすものだ。ある人々にとってはそれがトーキング・ヘッズの音楽だったんだろう。ちょうどそういう自己形成期にぶつかったのだろうね。

人生のそういった時期に、そういう音楽を経験した人たちのことというのは、僕も理解できるつもりではいるんだ。嗜好が決定づけられるような経験であればこそ、代わりになるようなものは簡単に見つからない。だからそれは僕の問題ではないんだ。「自分はトーキング・ヘッズの時と同じくらい、今もいい曲を書くことができるのか」と自問しなくてはならないとか、そういうことでは決してない。それに、(書くことが)できるのはわかっているしね。当時と同じくらいにいい曲が書けていることは自分ではちゃんとわかっているんだ。しかし、ある種の音楽を人生の特定の時期に耳にしていた人たちには、それに勝るものは決して見つかりはしないんだよ。そっちについても納得してる。それはでも、僕の側の過失ではないし、曲作りの問題でもない。だから、それがつまり人生ってやつなのさ。



―では、最後の質問ではちょっと立場を引っ繰り返してみましょう。私自身はトーキング・ヘッズ時代の「Heaven」がずっと大好きなんですが、この中であなたは“天国にはバンドがいて、僕のフェイバリット・ソングを奏でてくれる/繰り返し、夜中ずっと聴かせてくれる”と歌っています。この“お気に入りの曲”というのは、あなたにとってはいったい何になるのですか。

バーン:ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が大好きなんだ。誰でも知ってる曲だけどね、それこそ僕自身がその“特別な時期”に出会ったんだ。聴いた途端に打ちのめされたよ。どれだけ聴いても飽きるということはない。いや確かに、僕にもそういった部分があることは認めるよ。でも僕は立ち止まったりはしていない。だから、君がさっき言ったような「僕は1973年以降のどんな音楽も聴くつもりはないよ」みたいな感じにはなっていない。ちゃんと前に進んでいる。

―あなたは今でも、天国(heaven)というのは“何も起こらない場所”だと考えているのでしょうか?

バーン:それはそうだね。完璧さというものをきちんと概念化しようと思ったらいったいどうなると思う? ローブ姿の人々がハープを弾いているということには、たぶんならないだろうというのは言わせてもらって大丈夫だろう? そうではなく、それはある種の祝福された状態だ。祝福された状態というのがたとえどんな姿であったとしても、それは素敵なものだ。だから、大きな輪っかみたいなものなんだよ。ただ繰り返し繰り返し繰り返し、動き続ける。君自身の至福の時というのが、たとえば音楽のあるクラブやパーティーや、ほかの何でもいいんだけれど、それがそういう場面で起こるとすると、そのまま終わりなく続いていくんだ。それがだから、完璧さが顕現するということなんだよ。でもこういうふうに言葉にすると、わかってはいたけど、まるでバカみたいにしか聞こえないな。

―もし若い頃の自分に何かアドバイスできるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

バーン:人生のことはあんまり心配しなくていい。おおよそはなんとかなる。

From Rolling Stone US.




『アメリカン・ユートピア』
2021年5月28日(金)全国ロードショー!
監督:スパイク・リー
製作:デヴィッド・バーン、スパイク・リー
出演ミュージシャン:デヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カ ール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世
2020年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/107分/原題:DAVIDBYRNE`SAMERICANUTOPIA/字幕監修:ピーター・バラカン
(C) 2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
ユニバーサル映画 配給:パルコ 宣伝:ミラクルヴォイス

公式サイト:americanutopia-jpn.com

Translated by Takuya Asakura

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