THE SPELLBOUNDが語る、ブンブン中野とノベンバ小林にしか表現できない「領域」とは?

THE SPELLBOUND:左から中野雅之、小林祐介

1997年にヨーロッパデビューを果たし、音楽シーンにおいて文字通り唯一無二の存在として後世に多大なる影響を残したBOOM BOOM SATELLITES。そのヴォーカリスト・川島道行が2016年10月に逝去して約4年の月日が経った頃、BOOM BOOM SATELLITESのもう一人のメンバーである中野雅之がついに新たなバンドを始動させた。それが、THE NOVEMBERS・小林祐介とともに立ち上げたTHE SPELLBOUNDだ。

中野は、川島が1997年に初めて脳腫瘍を患ったときから4度の再発と闘い生命をまっとうし終えるまでずっと傍にいて、川島のボーカリストとして、そして人間としての変化をすぐ近くで見ながら、人生に対してどう肯定的であれるかというテーマと向き合って音楽を奏でてきた。そんな稀有な人生体験をしてきている中野は、THE SPELLBOUNDとして初めて発表した「はじまり」で歌われる通りどんな生命も“どれほど願ったって いつかは消えてしまうってこと”を知っている上で、「人間」と人間から発される「歌」の神秘に対する眼差しをとても深く持っているように見える。さらに言えば、この取材で小林が証言している通り、中野は音楽制作に対して超ストイックな姿勢の持ち主であり、他の誰も持っていない音楽的スキルと感性を持っている音楽家だ。

BOOM BOOM SATELLITESの頃から取材をさせてもらっていた筆者としては、そんな稀有な人生観・人間観と圧倒的なスキルを持ち合わせる中野が、BOOM BOOM SATELLITESとして28年間(結成から最後の作品リリースまで)の旅を終えた後、どういった音楽を求めるのか、そして人生や世の中に対してなにを思うのか、というところに非常に興味があり、川島のお別れ会で囲み取材が行われたときから「これから中野さんはどんな音楽活動をしたいですか?」と会うたびに問いかけてきた。きっと、他の人には見えていないものや、他のミュージシャンからは出てこない音を、体験させてくれるはずだと信じていたから。

現時点(2021年5月26日)でTHE SPELLBOUNDからは5曲の楽曲が発表されているが、1曲発表されるごとに、自分の目と心からは普段見ることができやしない景色と、人間のエネルギーや人格が宿っている音楽からしか感じられない深い感動を味わわせてくれている。中野と小林が巡り合ったことを、盛大に祝したい。

「はじまり」MV



―2017年3月にBOOM BOOM SATELLITES(以下、ブンブン)として最後のベスト盤をリリースして以降、MAN WITH A MISSIONのプロデュースや布袋寅泰、miletのアレンジ、アニメ『PSYCHO-PASS』の楽曲のリミックスなどを手掛けてこられましたが、そんななかでも「自分の作品」を出したいということをずっとおっしゃっていましたよね。改めて、なぜ自分の作品を出すことをそれほど大事に思われていたのかを、まず聞かせていただけますか。

中野 プロデュースとか楽曲提供というのは、主体であるアーティストがいて、彼らが行きたいほうに導いたりサポートしたりすることで。そうやって同じ目標に向かっていくことが醍醐味でもあるんですけど、その反動として、自分だけの判断で作っていく純粋な音楽を欲しているというが常にあるんです。僕の純粋な判断と思い切った舵取りを自分の責任だけでやっていくという、本来のもの作りの大切な部分を日々噛みしめたい欲求はまだまだ衰えてないところがあって。

―BOOM BOOM SATELLITESとして28年間、ときに気が滅入るくらい毎日それをとことんやり続けてきても、ですか。

中野 初めて曲を作った10代前半から、曲を作って人前で演奏するということをずっと続けてきて、ご飯を食べたり息をしたりするのと同じようにそれをやる生活を送ってきたので。この数年、それをパタリとやめていて……まあ、生きてない感じみたいなものも実際あったりするんです。平和な毎日は過ぎていくんですけど、一方で、どこか生きてない感覚があって。肉食動物の捕食する欲求とか、猫が動いてるものについ飛びついちゃうとか、そういう性みたいなものでしょうか(笑)。

―自分の作品を作ろうとしたときに、誰かと一緒にやりたいと思ったのはなぜですか? 中野さんなら、歌のないビートミュージックを作るという選択肢もあったとは思うんです。

中野 あんまりなかったかな。そういう音楽も聴いてはいたんですけどね。初期のUKテクノ、The Orbとか808 Stateとか、ヴォーカルが不在のポップミュージックは90年代前後にいっぱいあったから、すごく好きで聴いてたはずなんですけど、川島くんと長年制作に取り組んでいるなかで、インストの音楽の完成形というものがすっかり自分のイメージから消えている感じがしますね。

―それは、中野さんが「歌」というものに惹かれてるから、とも言えますか。

中野 そうですね。歌という表現と、歌う表現者――その人の内面が音声となって人に伝搬していくことに強い関心があります。その人のいろんな価値観だとか、生い立ち、背負っているものが、声や言葉に表れてくるので、それはやっぱりインストの音楽では絶対に表現できない奥行き感や立体感があるものなんですよね。特に川島くんという一人の人間がクリエイターとして、歌い手として、パフォーマーとして育ってきて一生を終えるという過程を見る中で、その変化というものをすぐ隣で観察することができた経験もあって、その想いがより強くなっている。いま僕は、小林祐介という人間に非常に関心があるし、彼に物事を深く考えてもらった上で歌ったときに、僕が快感として得られるものや感動として伝わってくるものがあるので、日々ワクワクしながら過ごしていて「これこれ」って感じですね。

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