THE SPELLBOUNDが語る、ブンブン中野とノベンバ小林にしか表現できない「領域」とは?

1年かけて小林のメンタルを大きく変えた

―Twitterで募集をかける少し前に中野さんをインタビューさせてもらっていて、そのときに中野さんが小林さんの作る音楽の世界観が好きだと話されていたのですが、THE NOVEMBERSのライブの印象はどのようなものだったんですか?

中野 圧倒的な音圧感とか、埋め尽くされるノイズで光そのものを表現していることとか、その強度はその日もあったし、「とてもストイックな人たちだな」という印象は強くあって。ただ、これはTHE NOVEMBERSに限らずですけど、僕は同じミュージシャンでありバンドマンだったから、見れば「こういうことがもうちょっとあったらいいんじゃないかな」「これがあると違う展開が見えてくるだろうな」とかなにかしら思うので。小林くんに対しても、表現者として研ぎ澄まされたところがある一方で、僕が一緒に音楽を作るんだったら欠けてるピースもあるんだよな、というのはそのときも実は感じていたんです。だから小林くんから「(ヴォーカリストに)立候補させてください」と連絡があったときに、小林くんが持ってる世界観の好きな部分と同時に、僕が欠けていると思ってるピースをどうしようかなっていうのをすごく考えて迷ったんですよね。たくさんきた応募にはすべて耳を通しつつ、小林くんのことはずっと気になっていたので、一回会って話してみようと。

―中野さんから見て小林さんの欠けてるピースって、なんだったんですか?

中野 生身の野性的な人間性というか魂みたいなもの。あまりにもものを完璧に作りすぎてしまって、小林くん自体が見えてきづらいということ。たとえば小林くんのギターの音色、アンサンブルの構成、メロディライン、言葉遣いとか、僕の好きな要素ばっかりなんですよね。それにもかかわらず、小林くんという人がどういう人なのかが不思議なくらい見えてこない。Twitterで募集をかけるよりも前に一緒にご飯に行ったことがあって、世間話とか好きなものについて話したんだけど、やっぱりあんまり見えてこない。なにを生きがいにしてるのかとか、家族に対しての愛情の持ち方とか、いろんなものが掴み取りづらいというか。不思議な人だなと思って、それもあって逆に変な興味があったんです。なので、応募してくれたときに、最初からリリースとかツアーの計画を考えるんじゃなくて、なにか起きるかどうかを探りながらやってみるところから始めようって言って、毎週会うようになって。僕は観察に観察を重ねて、小林くんってどういう人なのかを紐解いていって、そしてその奥底にある生々しい感情とか、普段自分が恥ずかしくて隠しているような感情にも触れてみたりして。それで閉じていたものがだんだん開いてきて、そこから俄然、音楽が面白くなっていく感じがありました。

―小林さんは、中野さんから人間が見えづらいって言われてどう感じられたんですか? 「図星だな」とかなのか……。

小林 最初は「図星だな」とすら思えないくらい、わかんなかったんですよね。わかんないから改善のしようもない。今まで自分の気持ちを保つために忘れたふりをしてたり距離を置いたりしていたのは、無意識だったんです。

中野 僕は小林くんにいろんなことを聞きたくなるわけですよ。「どうして音楽始めたの?」とか、「子どもの頃はロックスターに憧れたの?」とか。憧れたんだけど最初から諦めてたようなところもあったとか、そういうちょっとしたトラウマ的なことまで話すようになったりして。

小林 19歳くらいからTHE NOVEMBERSをやってるんですけど、もともと自分が焦がれたものとかキラキラした目で見てた憧れや夢みたいなものって、THE NOVEMBERSを始めた時点ですでに神棚に置いてちょっと遠くから眺めてるだけのものになってたというか。そういう、自分が無意識の内に神棚に置いて眺めてるだけで満足してちゃってたものを、中野さんとのやりとりの中で思い出すというか、どんどん炙り出されてくるわけなんですよ。

中野 僕は小林くんとそうやって会話をする中で、とても優しくて純粋な人だなっていうことを感じ取っていったんですね。優しさゆえに弱さもあったり。僕は優しくて純粋な人が好きなんですよ。

小林 (笑)。いろんなやりとりをしていく中で、ちょうど1年後くらいに、なんかわかったかも、っていう瞬間があったんです。ものすごく言葉をギュッとしちゃうと、心を開く、ということなんですけど。他人に対して心を開くのもそうだし、自分の心の在り処ってここだなって自分でちゃんと意識してあげて、「これは嘘偽りなく、今俺が感じたことだから大事にしよう」って自分の感じてることを自分が認めてあげる。普段だったら疑問とか恥ずかしさ、この感情を出しちゃうと相手にどんな影響を与えるだろうっていう不安もあったと思う。でもそれは、自分の感情をないことにしていい理由にはならないんですよね。その感情をちゃんと感じた上で、無意識の内に「俺、この人だったら心を開いてもいいかも」「それも含めて中野さんに見てもらおう」ってなれた瞬間がきたんだと思うんです。そこから出てくるものが変わっていったのかもしれない。それは本当に、自分の35年の人生の中でも相当重大なことだったんですよね。自分ときちんと向き合って、自分自身に対して誠実にしていくと、そこに立ち会ってくれる中野さんに対する態度とかも自然と変わってくる。

―「わかったかも」ってなった瞬間というのは、中野さんからなにか言われたとか、なにか音が出てきたとか、具体的なことがあったんですか?

小林 いやそれがないんですよ。ずっと中野さんの言葉は自分にとって大事なアドバイスだったり気づきをくれたりしていたんです。ブンブンのエピソードを聞いて、僕がハッとすることもあったし。

中野 ああ、そうなんだね。

小林 「川島さんがこう言ってたよ」とか「川島さんはこういう人だったんだよ」というのを聞いて、「俺と一緒だ」と思うところもあれば、「俺と全然違う」って気づきをもらうこともあって。とにかく、アツイ話ですよね。ハートを燃やすんだよ、みたいな。

中野 (笑)。

小林 『少年ジャンプ』みたいな言葉は、小林くんの美学には反するかもしれないけど、でも言葉で説明できることじゃないんだからあえて言うんだったら、結局ハートなんだ、と。ハートを震わせて、燃やして、それを燃料にして自分から湧き出てくるものが大事なんだ。それは「よし、ハートを燃やすぞ」とかじゃない、小手先でできることじゃない。そういう人になるんだ、そういうふうに生きるんだ、と。そういうふうに世の中を見ていくと、自分はなににハートが震えるかとか、自分は命を懸けてなにかをやるのかが見えてくる。自分の魂とかハートとか存在を投げ打って飛び込んでいくものなんだから、もっと勇敢になりなよ、みたいな。要約すると(笑)。

中野 人に言われると、ものすごい暑苦しい(笑)。

小林 そういう話を何回もされて、回を追うごとにちょっとずつわかりかけていったと思う。でも一番わかったっていう瞬間は、「なにもかも」の歌声の素材を僕が家で録ってるときと、中野さんにお渡しして返ってきたものを聴いたときの、その2点かもしれないです。「なにもかも」の歌素材を録ってるとき、今までと違って、あまり物事を頭であーだこーだ考えないで、自分の身体やハートが求めてるものを純粋に出してみよう、自分の身体と心をひとつにして真っ直ぐやってみよう、ということができた気がしたんですよ。で、中野さんから返ってきたのが今みたいなトラックだったので、「なんかすごくかっこいい気がする」と思えたし、中野さんもすごく手応えを感じてくれていたので、そこでホッとしたし「もしかしてハートってあれだったのかな」って掴みかけて。出来上がった曲を聴くと、あのときの気持ちが心の中にもう一回起こるんですよね、不思議なことに。それを、まだ失敗しながらなんですけど、曲を追うごとにわかり続けてるっていう。

中野 声から熱量が発せられて、そうするとトラックもめちゃくちゃ盛り上がる、という相乗効果が「なにもかも」でやっと生まれ始めて。そこに至るまでに1年くらいかかったんです。だから正直、1年間は結構暗黒で。毎週水曜日に会うようにしてるんだけど、もしかしたらこれはダメなのかもしれないっていう不安もずっと隣にあるような感じで過ごしていたのが、「なにもかも」のデモができたときにえらい熱量と大きな爽快感や感動と魂の叫びみたいなものがウワーっと伝わってきて。そのときまだ歌詞はついてなかったですけど、歌詞がついたときに僕はさらにびっくりした。

「なにもかも」MV



―「なにもかも」は解放といったキーワードがある曲だと思いますが、小林さんの解放でもあり、1月から5カ月連続リリースされた5曲自体が小林さんの解放や目覚めが投影されている5曲の物語とも言えそうですね。

中野 ああ、そうかもしれないですね。まさに。

小林 本当の自分を自分で認めにいく、迎えにいく、そういうのが全曲の中であるんですよね。「出せばいいじゃん」「出していいんだよ」って、中野さんは音楽で言ってくれてるような気もして。

「名前を呼んで」MV



中野 魂の叫びがあったり、なにかが始まることに対して湧き上がってくる期待感や楽しみ、未来を手繰り寄せていくようなワクワク感、「FLOWER」の祝福感、それらは小林くんの中から湧き上がっていることだと思うし。結局僕は、歌い手の溢れ出るものを受け止めて、それにブースターを入れて広げていくという役割だと思うんです。インストってそれが起きないから。これには勝てないですよね。

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