THE SPELLBOUNDが語る、ブンブン中野とノベンバ小林にしか表現できない「領域」とは?

ふたりが好きな映画から探る、THE SPELLBOUNDの美学

―おふたりの共通点の1つに、映画『スカイ・クロラ』(監督:押井守)をフェイバリットに挙げているという点があると思います。THE NOVEMBERSは「Sky Crawlers」という曲をリリースしてもいる。ふたりがなぜこの映画に惹かれるのかを話していただけますか? そこに、THE SPELLBOUNDで表現しようとしてることや美学に通ずるものがある気がして。



中野 押井さんのサイバーパンク的な要素が入った映画って、いつもとても哲学的というか。人はどこからきてどこに向かっていくのか、そもそも人とはなんなのか、ということを問いかけてくれる感じがあって、果たして僕が人と言える理由はなんなのかを考えさせてくれる。しかも、舞台設定とか、ある種今の現実の世界に置き換えられそうな感じがする。洗練された表現があって、情緒もあり、好きな要素が多いですね。

小林 好きな要素は本当に多いんですけど、「スカイ・クロラ」で特に印象的なのはセリフが少ないことで。印象的なセリフはもちろんあるんですけど、とにかく見ていて心地いいと思うのは、キャラクターのちょっとした所作一つひとつの細かい演技が表現されていて、セリフで説明されない。そういうものの凄みを感じてしまうんですよね。説明くさくないし、自分と同じ世界にいるような設定じゃないんだけど今の自分の世界にも響いてくるような描き方や人物像が、好きなのかもしれない。

中野 セリフで説明することなく、風の音だけとか、新聞を折りたたむだけの所作とかで、多くの情報量を伝えてくるところが、やっぱり表現者としてすごく挑戦的だなと思うし刺さるというか。いろんなものが細部に行き渡っていくことで魂を帯びてくるというのは、僕も実際に音楽表現のなかでやってることで。ちょっとしたノイズの消え際とか、ヴォーカルの歌い出しの息遣いで、いろんなものが伝わってきたりするから、そういう細部に情や情報があることを大切にしてる。なので、ある意味、自分がいつも気をつけてることとか好きなことが多く共通するのかもしれないですよね。

小林 「マジな人」同士が共鳴し合う領域ってあるのかもしれないですよね。押井さんの「スカイ・クロラ」のドキュメンタリーに、効果音を付けるところが映ってて。キャラクターがワインを飲むシーンでグラスを置いたときの「チーン」って音を、ああでもないこうでもないって選んでる場面があるんです。いろんなグラスを試したりエフェクト処理をしだしたりするんですけど、僕から見るとなにがなんだかさっぱりなんですよ。

中野 全部一緒じゃない、って?

小林 そう。だからマジな人にしか行けない領域とか、マジな人がなんかすごいって思っちゃうような領域というのが、絶対にどの仕事にもあるんだなって思う。

中野 それが集合体として集まると、結局、なにか一貫性を持った表現になっていったり、集中力が高い時間になっていったりするんだと思うんですけど。

―小林さんも自分の美学に対してとてもストイックで「マジな人」という印象を持ってますけど、そんな小林さんから見ても中野さんはさらにその上をいく「マジな人」なんですか。

小林 そうですね。土屋昌巳さんと出会って以来ですね、こういうマジな人の領域を感じるのは。

中野 あ、そうなの?

土屋昌巳がプロデュースを手掛けたTHE NOVEMBERS「きれいな海へ」



小林 今までいろんなすごい人たちと仕事したり現場で話したりして、みんなすごいんですけど、いざその人の仕事を間近で目の当たりにして、「もうここからは自分は感知できない」「でもこの人が言うんだったらそうなんだろう」って委ねるしかない段階にぶちあたるのが土屋昌巳さんと中野さん。それぞれの領域でありました。自分の身体みたいに楽器をいじったりしながら、表現されてる音だったり曲だったりが変わってくるわけなんですけど、途中からもう「すごい」しか言えないんですよね。「多分さっきよりすごい気がする」とか(笑)。

中野 ふふ(笑)。

小林 中野さんが直感的に作った最初のデモを聴いた時点で僕はもう鳥肌が立って「これ完成間近ですね」くらいの気持ちでいるんですけど、中野さんの「まだまだだな」っていう言葉を聞いて、「完成ですね」という言葉をグッと押し込める(笑)。

中野 ははは。ごめんね(笑)。

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