霜降り明星・粗品が語るボカロ文化への憧れ、芸人離れした本気の音楽表現

粗品(Photo by Mitsuru Nishimura)

霜降り明星・粗品が、本格的な音楽活動を開始。ユニバーサルミュージック内に立ち上げた自身のレーベル「soshina」からの第1弾となる新曲「乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」をリリースした。

昨年5月からボカロPとしての活動をスタートし、これまで8曲のVOCALOID楽曲を発表してきた彼。新曲は作詞、作曲、編曲、プロデュースを粗品自身が担当し、ボーカルに声優の竹達彩奈、ギターにRei、ドラムに石若駿を迎えたバンドサウンドのナンバーだ。同日には仕掛けに満ちたアニメーションのMVも公開、こちらのディレクションも粗品が手掛けている。

なぜ粗品がアーティスト/プロデューサーとして本格的な音楽活動を始めたのか? 絶対音感を持ち、ギターやピアノも堪能でオーケストラの指揮者も目指していた彼が、なぜこういった形での音楽表現に挑んだのか? ロック、アニソン、ボカロ、クラシックと幅広いルーツを持つ粗品の、お笑い芸人としての武器にも繋がる“音楽的発想”を探った。

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「自分にもできる」と思ってほしかった

―なぜ粗品さんがレーベルを立ち上げて音楽活動を始めたのかというところから、聞かせていただけますでしょうか。

粗品:もともと僕は本当に音楽好きで、プロフェッショナルとしてやってみたかったんです。ですけど、僕はもう芸人になってしまってるじゃないですか。そうなると、今から音楽をやるってなったら、しょうもなくうつってしまう、という不安がありました。というのも、同世代の芸人でも「曲出すことになりました!」とかめっちゃあるんですよ。それも「なんと曲はあの有名な誰々に書いていただき、ミュージックビデオ作りました!」とか。「こいつ芸人でちょっと成功したからって、なんで音楽でチヤホヤされようとしてんねん」と、思われかねないんですよね。特に僕、そういうのめっちゃ苦手で、嫌悪感を抱いてたタイプなんです。たとえば芸人とは違う職種で成功された方が「ネタは誰々さんに書いていただいて、M1に挑戦します!」とか言われても、気持ち悪いなと思ってしまうのと同じで。まず大前提、そうは思われたくない。プロのミュージシャンの方に、マジで失礼のないようにしたい。じゃあ、どうしたらいいかと考えたら、本気でやろうと思ったんです。芸人・粗品というより、音楽家として真剣に頑張りますから、という意味を込めてレーベルを立ち上げました。


Photo by Mitsuru Nishimura

―今おっしゃったことって、レーベル立ち上げより前に遡る話ですよね。去年の5月3日に1曲目のVOCALOID楽曲として「ビームが撃てたらいいのに」をYouTubeとニコニコ動画に発表した。これも、楽曲のアレンジや打ち込みも全部自分で、かつ、いきなり豪華なMVじゃなくて、1枚絵で公開された。このあたりの流儀も同じ考えからでしょうか?

粗品:全くその通りですね。自分でイチからやらなきゃ意味ないと思ってました。その時は知識もゼロでしたけど、マスタリングやミックスも全部自分でやったんです。めちゃくちゃ勉強したんですよ。ソフトのコンプレッサーで音を潰して、そこから右と左にパンを振って、リミッターで音量をあげましょうとか。正直、全然できてないし、プロフェッショナルの方からすると「何これ」っていうクオリティのものなんですけど、でもそういうのが大事だなと思って。アレンジとかって、めっちゃ難しいじゃないですか。それを自分でやって、筋を通したというか。



―あの曲の感想を率直に言うと、2008年頃の感じがしたんですよ。ボカロPがみんなアマチュアで、自分の思いだけで曲を作っていた時代の匂いがする。「これ、大人が動いてないぞ」という感じがしたんですよね。

粗品:手が届きそうな感じということですよね。ありがとうございます。

―ご自身で最初に作った曲がああいうシンプルな曲調の8ビットサウンドになったのは?

粗品:僕、ヒャダインさんが好きなんですよ。ヒャダインさんって音を重ねる天才じゃないですか。ポップスなのに、オーケストラみたいに沢山のトラックにいろんな音を並べている。そこへの憧れもあったし、その知識ももちろん勉強してたんですけど、それをやっても難しいなと思ったので。僕はブルーハーツ的な、本当に8ビートとコードだけみたいな楽器の構成で、それこそ自分たちが聴いてた「素人ちゃうんか、こいつら」っていうボカロPの人たちの想いだけで作った作品を彷彿とさせたいなというのはありました。シンプルで、技術とか知識とか環境がなくても、誰にでもできることというか。そっちの方が元気出るんじゃないかなと思って、自粛中に始めたのがきっかけです。

―その時点でDTMとかDAWの経験というのは、ほぼゼロに近かったんでしょうか?

粗品:一応、高校生の時に無料のソフトを軽く触ってはいました。なので、ピアノロールで作曲することはできたし、あとはネタに使う音楽を自分で作った経験はあったんですけど、ただ本格的に曲を完成させるというのは初めてでしたね。

―粗品さんは子供の頃から音楽をやってきましたよね。クラシックの素養もある。いろんな形でやろうと思えばやれると思うんです。でも、自分でやろうとなった時にDTMとVOCALOIDを選んだ理由は何でしょうか?

粗品:手が届きそうやったからですね。「僕でもできるんですよ」っていうのは見せたかったんですよ。「粗品ができるんやったら、私もできるんじゃないか」と思っていただきたかったというか。そういう意味で音楽好きの分母を増やしたいというのもあったし、もともとVOCALOID文化もめっちゃ好きやったので。僕が高校生の時、まさに2008〜2010年の3年間はニコニコ動画漬けだったんですよね。その時はVOCALOIDがめちゃくちゃ盛り上がってて、僕もその一大ムーブメントを追っていた。ただ、最近は、VOCALOID文化から離れちゃってたんですよね。「もう1回みんなでVOCALOIDやろうぜ」みたいな感じはありました。

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