GRAPEVINEが語る、手本に寄せない一点突破のバンド力と歌詞の深み

人間の営みとか過ちは、いつまでたっても同じ

―さて、今作『新しい果実』はGRAPEVINEの最高傑作と言ってもいいと思うのですが、完成形のビジョンやテーマはレコーディング前からあったのですか?

田中:これは昔からそうなんですけど、僕らあんまりテーマを持たないというか、次のアルバムはこうしよう!みたいなのはないんです。そのテーマに縛られるのも嫌なので。あくまでも曲ごとにやってますね。

―今回も曲のバリエーションが多彩なのと同時に、アルバムに散りばめられている言葉から、聖書や神話というキーワードが透けて見えます。アルバムタイトルの<新しい果実>は旧約聖書の<禁断の果実>を文字っています。アルバム1曲目の「ねずみ浄土」は日本の童話のタイトルです。その「ねずみ浄土」には<アダムとイブ>という言葉が早々に目に飛びこんできます。

田中:そうですね。先ほども言いましたが、世の中のことを何か寓話に託して書くわけですけど、メタファーとして、例えば旧約聖書のような欧米の宗教観みたいなものは、非常に引用しやすいんですね。人間の営みとか過ちは、いつまでたっても同じだなってことを実感する。日本人からすると、キリスト教だったり欧米の宗教観って、全然ピンと来ないと思うんですね。それと日本固有の土着的な、おむすびころりんみたいなものをマッシュアップすると、ちょっと笑えるかなと思って(笑)。

【動画を見る】「ねずみ浄土」ミュージックビデオ

―その「ねずみ浄土」での、<ダーリン、降臨、ころりん>と韻を踏んでいるのにもぶったまげました。どういう思考回路なんだと!

田中:結局は音ですよね。

―さらに「ねずみ浄土」には<オリジナルシンのせい>と<原罪>なんていう言葉が歌詞に出てくること自体が強烈でした。こういう歌詞をどういう風に書いてるんですか? 正直想像もつかないんです。

田中:うーん……ネタバラシになるので、あんまり歌詞のことを語りたくないんですけど。まぁ、何か世の中のことを書きますよね。何か一つのテーマに焦点を当てて一曲書いていくわけですけど、何と表現したら面白いかなみたいなところから入りますね。また僕はいわゆるホニャララ英語みたいなもんで仮歌を歌ってるんですけれども、その仮歌のストーリーというか、仮歌とサウンドの中のストーリーみたいなところから抽出される音としての言葉を合わせていく感じですかね。上手いこと言われへんけど。

―曲を聴くと納得します。「ねずみ浄土」に関しては、サウンドのイメージも今までのGRAPEVINEとちょっと違いますね。

田中:うん、そうですね。結構手応えありましたけどね。

―SNSとか見てたら「バインが売れちゃう、どうしよう」みたいなのを複数見ました。

田中:売れる曲でもないような気もするけど(笑)。それは何を持ってしてそう言ってくれてるのか、ちょっと謎ですけど。

―(笑)でも確実にサウンドとしては新しいチャレンジだなと。

田中:そうですね。今回僕の曲が結構多いっていうのもありますし、あんまりバインでやってなかったものを意識的に作ってたんです。このメンバーでやればきっとバンドサウンドになるだろうなと、そういう感じですかね。

―M2の先行配信された「目覚ましはいつも鳴りやまない」も面白かったです。何気ない生活を歌っているのに、急にスティーヴィー・ワンダーの「Living For The City」の一説が出てきます。「Living For The City」って革命を起こせ!的なメッセージソングです。

田中:でもあらためて見てみると、そんなに強いメッセージじゃないんです。実は昔のプロテストソングって、直接的に革命を叫んでないんですよね。もっと皮肉っぽいというか。市井を描いていることが多くて。多分、アジテーション的なものではないと思うんですよ。「Living For The City」もあらためて歌詞を読んでみると、黒人の立場から書いているので、差別や格差みたいなものが非常に地味に皮肉っぽく描かれているんです。

―ポップスの雰囲気なのに、スティーヴィー・ワンダーの歌詞の引用で急に足元をすくわれる感じが田中さんぽくて最高でした。

田中:そう聴いていただけると嬉しいですね。

―で、歌詞の最後は<私たちはずっと鳴りやまないでしょう>と。

田中:まぁ、すごくポジティブですよね。

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