アレサ・フランクリンのアルバム『Lady Soul』をマリアージュ、鳥居真道が徹底考察

こうした一定の刻み方を、ボーカル、コーラス隊、楽器隊が共有し、足並みを揃えて演奏していくわけです。足並みを揃えるといっても、よく訓練された軍隊のように一糸乱れぬ行進を目指すというものではありません。多少のゆらぎがあったほうが心地よく感じられたりもします。ミュージシャンの裁量で、敢えて溜めたり、走ったりして演奏に面白みをもたせる場合もあります。とはいえ、それも各ミュージシャンの体内メトロノームの刻み方がある程度シンクロさせた上での技巧的な表現であります。

この体内メトロノームというのは、あくまで目印であって、具体性を伴った音として発せられているわけではありません。とても抽象的なもので、演奏者側の頭の中にしか存在しません。聴いている側は、頭の中でミュージシャンたちの体内メトロノームの刻みを想像する必要があります。必ずしもそうしなくてはならないという話ではないのですが、想像してみることで各要素が整理されるので曲をトータルで味わい安くなるはずです。

それはなぜか。すべての音は体内メトロノームの目盛りを基準に演奏されるわけだから、その目盛りを意識していれば、その上をどんな音が積まれているのかくっきりします。川が流れを眺めるかのように音楽を聴くのではなく、止まった絵を連続させることで動きを生むパラパラ漫画を見ているかのように聴いてみるというようなイメージです。やはり各楽器の音や声をまとまりとして捉えるためにはリズムを意識するのが良いと思われます。

そうしたことを踏まえてアレサの歌唱を聴いてみます。ボーカルから想像できるのは「ターカターカターカ」という刻み方です。Aメロではこの刻み方の足取りがやや重たく感じられます。敢えて「ターカターカ」という刻みにはまらないようにしていると捉えられるかもしれない。歌詞の内容は雨が降っていて退屈だし、また別の一日の始まったことを悟ってうんざりするといったものです。そういう意味では気怠げなリズムで歌われることにも納得がいきます。補足すると、ジーン・クリスマンがかなり粘っこいビートを叩いているので、それに比べたらアレサの足取りは軽いともいえます。

Bメロになるとボーカルの様子に変化が現れます。足取りが徐々に軽くなっていきます。サビに近づくとスキップしているようにも聴こえるほどです。ここでは、あなたに出会う前の人生は冷酷だったけど、あなたが心に平穏をもたらしたといった内容が歌われています。ストリングスのオブリガードが挿入されます。このフレーズは3連符ではなく、1拍を4等分する16分音符で構成されています。3連符世界の外部に位置づけられる単位なので、どこからか他者がやってきている様子を描いていると解釈することができるかもしれません。こういうなんとでも言えることを言い始めるときりがないので、控えめにしておきましょう。

Rolling Stone Japan 編集部

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