ウルフ・アリスが語る、UKロックの旗手を飛躍させた「学びと成長」

ウルフ・アリス(Photo by Jordan Hemingway)

8年前のデビュー以来着実にステップを重ねて、前作『Visions of a Life』(2017年)でマーキュリー・プライズを獲得。名実共に、英国のインディロックの旗手としてポジションを固めた感があるウルフ・アリスが、3rdアルバム『Blue Weekend』を送り出す。

マーカス・ドラヴス(アーケイド・ファイア、コールドプレイ)をプロデューサーに迎えた今回は、過去2作品で確立した、シューゲイズ・ミーツ・グランジ的なシグネチャー・サウンドを引き継ぐ一方で大きな飛躍も見せ、ポップに、フォークに、シンフォニックに、ライブで鍛えたアンサンブルを実にフレキシブルに応用。フロントウーマンのエリー・ロウゼルもシンガーかつソングライターとして新境地を開拓し、すでに広く認知されていたバンドのスケールに、まだいくらでも伸びしろがあることを示唆する作品となった。4人のメンバーを代表してインタビューに応じてくれたそのエリーの言葉からも、本作がバンドにとって特別な意義を持つアルバムであることが、伝わってくるはずだ。


―英国では5月半ばにロックダウンが緩和されて、活気が戻りつつあるようですね。

エリー:そうね。ちょうど天気も良くなってきたし、ようやく色々動き始めて、さすがに気分が上がっているわ(笑)。冬中続いた最後のロックダウンは、さすがに辛かったから。幸運にも私たちはアルバム作りに打ち込むことができたんだけど、ツアーをやりたくてしょうがなかったし、ライブを観に行きたかったし、人生の大きな部分が欠けてしまったという喪失感があったのよね。



―少し振り返ってみたいんですが、『Visions of a Life』の発表後2年近くツアーを行なったあなたたちは、19年後半に初めて長いオフをとったそうですね。充電期間を置いて新作に着手した時のバンドのムードはどんな感じでした? 相当期待もかかっていたと思いますし。

エリー:私自身は結構不安だった。それはマーキュリー受賞とか外的な要因とは関係なくて、とにかく前作よりいい作品を作りたかったのよね。音楽の良し悪しは主観的なものだけど、自分が確実に前進したという手応えを欲していた。だから、自分自身にプレッシャーをかけていたところはあるのかな。しかも今回は、すごく感情的に深入りした曲が多いだけに、聴いていると色んなことが甦ってきて辛くなっちゃうし、パンデミックで気を紛らせる手段もない。ほかにやることがないから、アルバムにものすごく大きな意味を与えてしまっていたのよ(笑)。そんなわけで、あれこれ考え過ぎて思い詰めてしまうこともあった。精神的な負担は軽くなかったけど、バンドの素晴らしいところは、みんなで体験を分かち合えるってこと。行き詰まったらジョエルとジョフとセオに相談できるし、腹を割って話せる仲だから、すごくありがたかったわ。

―実際、過去2枚との違いは色々ありますが、まずリリシストとしてのスタンスがシフトしましたよね。これまであまり取り上げなかった、恋愛を題材にした曲が多くて、明らかによりパーソナルなトーンになりました。自分をさらけ出すことに解放感はありましたか?

エリー:というか、そもそも曲を書くこと自体が私を解放してくれるんだけど、確かに、自分にとって辛い体験や想いを3分半のポエトリーに転化する作業は、解放感をもたらしてくれる。自分の気持ちを整理できる。書くことは私にとって本当に大事なことなの。クリエイティブであるか否か、文章を書くことに長けているか否かに関係なく、自分の感情に言葉を与えるという行為、言葉を綴るという行為は、カタルシスを与えてくれると思うわ。

―誰かインスピレーションをくれたリリシストはいますか?

エリー:ビッグなポップスターたちからは、それなりに刺激を得たかな。例えばアリアナ・グランデだったり、人々がそのアーティストの私生活にすごく関心を持っていて、それでいて、明らかに実体験を描いていると受け止められる曲を歌うことを躊躇わない人たち――ね。私自身はかなりプライベートな人間で、人々の解釈次第で自分が気まずく感じるようなことを歌うのは、ちょっと抵抗がある。でもああいうパワフルな女性アーティストたちは、メディアにどんなにひどいことを言われようと、構わずに自分の人生をさらしていて、そういうのを見ていると勇気をもらえるのよね(笑)。そしてほかにもアークティック・モンキーズのアレックス・ターナーとか、単純に素晴らしいリリシストたちがいて、大いにインスパイアされる。まあ彼の場合、「この曲で歌ってるのはあの女の子のことね」とか細かく分析されるわけじゃないから、そこは不公平で、疑問を感じるんだけど。究極的には自分にとって意味がある言葉を綴って、人々に投げかければいいんじゃないかと思っているわ。あと今回は特に、プレイフルな歌詞にすることを意識したかな。シリアスな内容でも、ユーモアを交えたりして。私自身そういう人間だから!

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