ダニー・エルフマンが語るロックと映画音楽、ディストピア的世界観とノイバウテンへの共感

ダニー・エルフマン(Photo by Credit Jacob)

 
ダニー・エルフマンが2021年6月、37年ぶりとなるソロ・アルバム『Big Mess』を発表した。

『バットマン』(1989年)、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)、『ミッション・インポッシブル』(1996年)、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)、『ジャスティス・リーグ』(2017年)など数々のヒット作の映画音楽を手がけてきたダニーだが、かつてロック・バンド、オインゴ・ボインゴをリーダーとして成功に導いたことでも知られている。本作はロックと映画音楽をクロスオーヴァーさせながら、現代世界のダークなディストピアを描いた、精神的にヘヴィにのしかかる音楽性を提示するものだ。

『Big Mess』の黙示録的な世界観、そして全身刺青バリバリの佇まいに対して、ダニーは穏やかに、ユーモアを込めながら話す人物だ。ニュー・アルバム、そして彼のキャリアを彩ってきたさまざまな出来事について、初公開となる秘話を含めながら語ってもらおう。


Photo by Credit Jacob


自分の中にあった“猛毒”

―『Big Mess』は“とんでもない乱雑さ”を意味するタイトルに対して、完成度の高い曲の揃ったアルバムですね。

ダニー:そう言ってくれると嬉しいね。『Big Mess』の制作はとてつもなくクレイジーな作業だった。元々、ニュー・アルバムを作るつもりはなかったんだ。2020年4月、米国カリフォルニア州のコーチェラ・フェスティバルでライブをやるためにリハーサルしていて、久々のライブにすごくエキサイトしていたけど、延期~中止になってしまった。自宅待機に入ったとき、まだ指にはエレクトリック・ギターの感触があったよ。コーチェラでは私の過去の曲を主にプレイする形式だったけど、ロックとオーケストラを融合させた構成だった。そんな路線の音楽性で新曲を書いたらどうなるだろう?と考えたんだ。新型コロナウィルスのせいでずっと自宅にいたし、とにかく何曲か書こうと思った。そのパンドラの箱を開けてみたら、閉じることは不可能だったよ。とにかく書き続けて、アルバムが作られたんだ。

―コーチェラでのライブは「フロム・ボインゴ・トゥ・バットマン・アンド・ビヨンド!」と題して、あなたのキャリアを総括するものと言われていましたが、その時点で『Big Mess』からの曲も演奏予定だったのですか?

ダニー:うん、「Sorry」を演るつもりだった。実際にはその前年、2019年に書いた曲で、10分ぐらいのインストゥルメンタルだったけど、アルバム全体のサウンドのイメージはここから築かれていったんだ。タスマニアのダーク・モフォ・フェスティバルで初演することになっていて、バンドと女声コーラスと少人数オーケストラから成る曲だった。主催者たちに“チェンバー・パンク”と説明したのを覚えている。ただ、ライブをやるとなると1曲だけではなく、1時間分のセットリストが必要だろ? それで結局そのフェスには出演しなかった。その後、コーチェラへの出演オファーがあったとき、オインゴ・ボインゴや映画音楽などを交えながらやってみようと考えたんだ。そして「Sorry」に歌詞をつけることにした。それですべてが動き出したんだ。



―久々にロック/ポップの曲を書く作業はどのようなものでしたか?

ダニー:自分でも驚いたんだ。こんな“猛毒”が自分の中にあったってことにね。「Sorry」だけでは毒をぶちまけ足りなかったんで、さらに新曲を書き続けることにした。それが私のモティベーションだったんだ。「Happy」もコーチェラで演奏する予定で、ギリギリ最後に書いた曲だった。ライブの1曲目に「Sorry」、ラストに「Happy」をプレイするつもりだったんだ。この2曲で『Big Mess』のカラーが確定した。ヘヴィでクレイジーでシリアスで楽しい.....そんな要素が競い合い、次々と現れるアルバムにしたかった。6曲ぐらい書いた時点で、複数のアルバムを同時に作っている気分だったよ。1機の飛行機を2人のパイロットが操縦している感じかな(笑)。


 
 
 
 

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