クイーンからザ・クラッシュまで、ディズニー映画『クルエラ』を彩る音楽を徹底解説

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エマ・ストーン主演のディズニー映画『クルエラ』(公開中)では、物語の舞台である、パンクムーブメント吹き荒れる70年代のロンドンで人気を博した楽曲がふんだんに用いられている。ロック/パンクのファンも必見の本作を、サントラ収録曲から掘り下げてみよう。

『ラースと、その彼女』、『ミリオンダラー・アーム』、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』など、個性的な映画ばかりを撮り続けてきたクレイグ・ギレスピー監督が、エマ・ストーンとタッグを組んだ新作『クルエラ』。『101匹わんちゃん』シリーズの“悪役”であるクルエラが実写映画でどのように描かれるのか、大いに注目されていた。



いざ蓋を開けてみると、舞台のロンドンはそのままに、1952年生まれという大胆な新設定が主人公に与えられている。“謎のデザイナー、クルエラ”がファッション界に登場するのはパンク・ロック・ブーム真っ只中の1977年で、彼女が25歳の時。なので、サウンドトラックも彼女が少女だった頃に耳にしたであろう60年代のヒット曲から、パンク登場前夜の70年代前半を思い出させる曲、そしてパンク世代のアンセムまで、時代性を感じさせる名曲が並ぶ。

日本版パンフレットで紹介されているアンドリュー・ガン(プロデューサー)のコメントが、何よりわかりやすく本作における音楽の位置付けを教えてくれる。「この映画に登場する音楽は、もはやそれ自体が登場人物のような存在だ。クレイグはこの映画に素晴らしいロックンロールを流しながらも、その歌詞と映画のセリフが喧嘩しないように組み込むすべを心得ている」。本編を見ればわかる通り、音楽は単なるBGMではなく各シーンを補足する役目を果たしており、映像と曲は不可分な関係にある。選曲及び音楽の使い方の“妙”は、各曲の歌詞や背景をよく知っている人ほど強く実感できるはずだ。

ここからは、サウンドトラック盤の収録曲を順に見ていこう。






アルバムの冒頭を飾るのは、フローレンス・アンド・ザ・マシーンによるエンドソング「Call me Cruella」。本作のスコアも手掛けた、『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』などの音楽で知られるニコラス・ブリテルとのコラボから生まれた曲だ。普段のフローレンス・アンド・ザ・マシーンとはややタッチが異なり、ブリテルのスコアとトーンを合わせてきた印象。感情を抑えるように切々と表現するフローレンス・ウェルチの歌唱も出色だ。



スーパートランプの「Bloody Well Right」は、ポップ色を増す以前、UKプログレッシブ・ロックの注目株として見られていた初期の小ヒット。彼らの出世作である3作目『Crime Of The Century』(1974年)からシングル・カットされた「Dreamer」のB面曲だったが、ラジオで火がついて全米35位まで上昇した。ロジャー・ホジソンが歌うキャッチーな曲ではなく、リック・デイヴィスの泥臭いヴォーカルをフィーチャーした曲、というチョイスがシブい。

ビー・ジーズの「Whisper Whisper」も意外な選曲で、ディスコ路線に移行する遥か以前のアルバム・トラック。1969年に発表した2枚組大作『Odessa』に収録されていた。サイケ・ポップの空気を引きずった浮遊感溢れる曲調が、場面にうまくフィットしている。

ドアーズ『Waiting For The Sun』(1968年)のB面ラストに置かれていた「Five To One」は、ロック古典を知らない世代には“ジェイ・Zの「Takeover」でカニエ・ウェストがサンプリングした曲”と説明した方が早いかも。ヘヴィなリフとジム・モリソンの咆哮はスクリーンでも一際映える。

ニーナ・シモンが歌う「Feeling Good」は、デヴィッド・ボウイにも影響を与えたアンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカッセが共作したもので、ミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』(1964年)が初出。数多くのアーティストにカバーされてスタンダード化したが、中でもこのニーナ・シモンによるジャジーなバージョン(1965年のアルバム『I Put A Spell On You』に収録)が人気だ。ロック・ファンにはミューズのカバーが最もよく知られているだろう。


 
 
 
 

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