細美武士とTOSHI-LOWが語る、the LOW-ATUSが体現するフォークの世界

「俺はエグいもの尊いものでも何でも、最終的には歌にしたい」(TOSHI-LOW)

―確かに。佳曲揃いの中でも「君の声」が一番好きです。これはTOSHI-LOWさんが作詞・作曲で、細美さんがピンでヴォーカルですよね。まずはTOSHI-LOWさん、この詞は何を思って書いたものなのか、そしてなぜ細美さんに歌ってもらおうと思ったのかを聞かせてください。

TOSHI-LOW:この曲を作った経緯は、みーちゃんにも歌入れの前に言ったんだけどさ。震災で10年前に息子を失くしてしまった家族のインスタを見てたら、誕生日のお祝いをやってたんだよね。「あれ? 誰が誕生日なんだろう」って思って、はたと気づいたら10年前に亡くなった息子の26歳の誕生日をやってたの。俺の中ではその発想は全然なくて。10年前に16歳で亡くなってるんだけど、毎年誕生日をやって一歳一歳年をとっているわけ。それを見てけっこうショックというか、ハッと思って。自分の考え方と全然違うから。あまりにもそれが美しく切ないから、形に残したいなって思ったんだよね。俺はエグいもの尊いものでも何でも、最終的には歌にしたいから、今回、こういう詞を残したの。そしたら、すごくメロディを高く作っちゃってて、仮歌を入れる時に声が裏返っちゃってさ(笑)。

―キーを下げればいいじゃないですか?

TOSHI-LOW:下げればいいんだけど、“そうだ! この曲、世界で一人、歌える人がいるぞ”って。つまり細美武士がいるわけじゃん。みーちゃんも「キーが高い」って言ってたけど、歌っている中で俺の書いた言葉とみーちゃんの歌がどんどん合わさっていってさ。自分で詞を書くと使わない言葉ってどうしてもあるんだよね。その一方で、自分だったら恥ずかしくて歌えないけど、他の人だと歌える言葉がある。俺もみーちゃんが書いてくれたやつはすんなり歌えるわけ。だから、細美武士が使わない言葉が意外に新鮮なのかなと思ったしね。

―TOSHI-LOWさんが書いた美しい歌詞と曲に乗った細美さんの歌が透明で優しくて。特にサビの“ただあなたに逢いたくて”の部分が秀逸でした。

細美:TOSHI-LOWからこの曲のエピソードを聞いてたから、それを書いたTOSHI-LOWの気持ちを最初はなぞろうと思ったんだよね。でもそれはやっぱり借り物になっちゃうっていうか、真似してるって言うのかな……、後追いで入り込むような、演技っぽくなっちゃうなと思ったから、俺はその光景を見てガツンとくらったTOSHI-LOWを見てる語り部的な立ち位置で歌おうと思ったの。“こういうことが起きたんだよ”っていう風に歌ったら、すんなり形になったから良かった。それに気づくまではちょっと難しいなって思ってたけど、わかったから逆に俺の感情的な感覚はあんまり入ってないんだよね。その誕生日の光景もすごいし、それを見てくらって曲にしようと思ったTOSHI-LOWの感覚も美しいし、それを横からいいなと思って歌っている俺がいるみたいな感じ。

TOSHI-LOW:その時に、細美武士の楽器としての素晴らしさを見たんだよね。初めはキーが高かったり、イメージが邪魔したり……って時に、たぶんスッと一回そういうのを捨てたんだと思うのね。それで、自分の喉と空気と体、つまり“ヴォーカル・細美武士”だけになった。そこから声と雰囲気をアジャストするのがすごくて。一瞬その空っぽになって、ただ自分が楽器になっていく様を後ろから見てぞわぞわした。すげぇって思って。

―そういうことができちゃうんですね、気持ちの切り替え一つで。

細美:その感情がどれだけ本当に音になって飛んでいるのかはわからないけどね。でも、やってる側は意外とそういうところまで考えて歌ってるもんだよね。

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