Homecomings『MOVING DAYS』考察 言葉と歌に宿る情景と普遍性

Homecomings(Courtesy of IRORI RECORDS/PONY CANYON)

2021年も6月に入り、海外メディアは「上半期のベストアルバム」を発表していたりするが、僕の中でそのリストの上位に確実に入るのが、Homecomingsの『MOVING DAYS』だ。(文・金子厚武)

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本作は海外インディへの憧れから始まったバンドが、様々な変遷を経て、普遍的な日本語のポップスへとたどり着いた作品であり、古今東西のポップカルチャーから受け取ってきたメッセージを、あくまで一生活者の目線で自分たちなりに表現することによって、この時代に鳴るべき音楽の形へと昇華した、素晴らしい作品だ。



今思い返してみても、2013年に発表されたデビュー作『Homecoming with me?』は鮮烈だった。京都精華大学のフォークソング部で結成され、ロックバンドとしては珍しい部類の女3男1という編成の4人が鳴らす、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのようなせつなくもキラキラしたギターポップは、地元のSECOND ROYALからのリリースというお墨付きもあって、すぐに早耳のインディキッズに知れ渡った。

2014年の1stアルバム『Somehow, Somewhere』、2016年の2nd『SALE OF BROKEN DREAMS』とリリースを重ね、音楽性の幅を広げ、ライブを数多く経験する中で、おそらくはもっと早く上京し、メジャーリリースをするタイミングもあっただろう。しかし、彼女たちは自分たちの足元をしっかりと見つめながら、着実に活動を続けてきた。

転機となったのは2018年の京都アニメーション制作映画『リズと青い鳥』の主題歌になった「Songbirds」と、同年にリリースされた3rdアルバム『WHALE LIVING』。彼女たちが愛してやまない映画を通じてこれまで以上に外の世界と接続し、アルバムでは英語詞から日本語詞へと移行して、より言葉と歌の関係性を深く見つめるようになったことは、間違いなく『MOVING DAYS』の起点となっている。

くしくもペインズが解散し、その青春に幕を下ろした2019年、彼女たちは遂に拠点を東京に移し、『MOVING DAYS』は初めてのメジャーからのアルバム。本作で印象的なのは、まず畳野彩加の歌の素晴らしさだ。もちろん、YOUR SONG IS GOODのサイトウジュンや、NOT WONKの加藤修平らが参加し、音楽的なチャレンジも端々で感じられるが、それをかつてのようにジャンルでカテゴライズしたり、海外との同時代性で語ることにはあまり意味がないように思う。とにかく、本作は普遍的なポップスとして抜群だ。

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