Homecomings『MOVING DAYS』考察 言葉と歌に宿る情景と普遍性

Homecomings(Courtesy of IRORI RECORDS/PONY CANYON)



Homecomingsが歌う「ラブソング」とは?

この変化は前述の通り、英語詞から日本語詞への移行によって「言葉」への意識がより高まって、弾き語りでも成立するような「いい歌」を志向するようになったことと、それに伴ってジャズやソウルマナーのコードワークを取り入れ、歌の表情に深みが加わったことが大きい。昨年は近年親交を深めていたくるり主催の「京都音楽博覧会」で畳野が岸田繁楽団に参加し、「ひこうき雲」を歌ったことも話題を呼んだが、まさにユーミンのような、せつなさと温かみの、強さと儚さの同居が、今の彼女の歌からは感じられる。近年畳野はいくつかの楽曲にフィーチャリングで参加していて、くるりの「コトコトことでん」もそのひとつだが、SECOND ROYALの先輩で、12年ぶりのアルバム『TECHNIQUE』を発表したHandsome Boy Techniqueの「スロウフィッシュ」も素晴らしかった。

もうひとつ印象的なのが、福富優樹による歌詞である。2019年に映画『愛がなんだ』の主題歌として書き下ろされ、本作にはアルバムバージョンが収録されている「Cakes」について、福富からは「初めてのラブソング」とのコメントも出ているが、本作では同性愛を含む多様な形の愛と向き合いながら、変わっていくことと変わらないことの狭間で、生活と社会のあり方を見つめ、その言葉の数々が胸に迫る(なお、歌詞の背景にある想いについては、ホームページに掲載されている福富自身によるライナーノーツも素晴らしく、創作に対する真摯な姿勢が伝わってくるので、未読の方は是非)。

ここで少し話がHomecomingsからはずれるが、2021年の上半期において、日本はちょっとした「ラブソングブーム」だった。星野源の「不思議」、米津玄師の「Pale Blue」、あいみょんの「愛を知るまでは」という、同時期にドラマ主題歌となった3曲は、それぞれの視点によるラブソングであり、もう少し言うならば、くるりが発表したのも『天才の愛』というアルバムだった。誰もが初めて経験する困難な現実の中で、時代をリードする表現者が揃って「ラブソング」を発表したという事実には心を動かされるが、これは時代とともに価値観が大きく変化する中にあって、「ラブソング」の解像度を引き上げ、その定義を拡張するような動きだったように思える。

では、『MOVING DAYS』においてHomecomingsが歌う「ラブソング」が何なのかと言えば、その背景にあるのは「日々の生活」への愛であると感じる。「街(まち、町)」という単語が頻出し、アートワークには引っ越しを連想させるダンボールが使われているように、京都から東京へと拠点を移す中で、双方の街並みに思いを馳せながら、その中で生きる都市生活者としての想いを綴ることが、そのまま現代的な、広い意味でのラブソングになり得る、そんな感覚があるように思うのだ。それは本作よりバンドのマネジメントを務めるのが、「衣食住音」を掲げるカクバリズムであることともリンクする。



そしてその結果、今現在暮らしている東京以上に、地元である京都への想いが強く感じられるのも面白いところで、「離れてみて、初めてわかる尊さ」というのは誰もが経験するものだと思うが、その感覚も本作からは感じ取れる。アルバムの中でも随一の名曲で、“さよならの偶然も 変わる町の風景も きみがいたなら どうやって写すだろう/でも 続く続く まだまだ続く”という歌詞が印象的な「Continue」は、さくらももこが亡くなった際、京都の喫茶店で一気に歌詞を書き上げ、ボロフェスタへの出演の際にストリングスを交えた現在のアレンジができたそうで、「Pedal」も京都の街を自転車で駆け回っていた思い出を基に書かれているそう。昔ながらの景観を残した街並みに個人店が立ち並び、学生の出入りが多く、ボロフェスタのようなDIYな色の強いフェスが地域を代表する京都という街は、ずっと関東で暮らしている自分からすると、やはり生活の匂いがする街という印象で、それがそのままHomecomingsというバンドのイメージとも重なる。

『SALE OF BROKEN DREAMS』は、彼女たちが憧れるアメリカ的な世界観の街を舞台とする、短編小説のような作品だったが、『MOVING DAYS』の舞台はあくまで実際に自分たちが暮らしている/暮らしていた街。しかし、主人公は必ずしも自分たちだけではなく、それを映画的に表現することによって、聴き手それぞれの生活の匂いを浮かび上がらせる。それこそが本作の何より素晴らしいところではないだろうか。

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