ルーシー・ダッカスが語る、「暗く悲しいシンガーソングライター」を卒業するまでの日々

ルーシー・ダッカス(Photo by Ebru Yildiz)

ルーシー・ダッカスが通算3作目となるニューアルバム『Home Video』をリリース。フィービー・ブリジャーズジュリアン・ベイカーと結成した「ボーイジーニアス」でも知られる彼女が、最新作に影響を与えた愛すべき青春時代を振り返る。

13歳の夏、ルーシー・ダッカスは地元バージニア州で行われたバイブル・キャンプに参加した。今思い起こせば、礼拝時に節制を説く説教が「少しエロチックな賛美歌」に聴こえたという。そして5人の少年たちをコーラスに従え、アコースティックギターを抱えてスノウ・パトロールの「Chasing Cars」を歌った。既に彼女の才能の片鱗を見せていたのだ。それよりも重要な出来事は、彼女にとって初めてのボーイフレンドができたことだ。「彼はスレイヤーに夢中で、マリファナを吸うような子だった。私とデートしたいならマリファナは止めることね、と彼に言ったわ」と、26歳になったルーシーは自宅からのZoomインタビューで振り返る。彼女は今、フィラデルフィアで6人の友人たちとシェアハウスで生活している。「私は堅物の頑固者で、道徳観が高い13歳だった」

彼女の10代初めのロマンスストーリーは、3rdアルバム『Home Video』のハイライトとも言える「VBS」(ヴァケーション・バイブル・スクールの略)に描かれている。アルバムは、Matadorから6月25日にリリースされる。歌詞は柔らかくかつ繊細に描かれ、圧倒的にリアルさを感じる。“あなたの書く詩は最悪ね/笑いを堪えるのに必死だった。私があなたの希望の光だと言うけれど/結局全ては/前よりも真っ暗よ”と彼女は歌う。



ルーシーの過去の作品と比較しても、今回のニューアルバムの感情的なパンチ力は凄まじい。彼女の7歳〜17歳までの記憶に基づく繊細なストーリーを、壮大なインディーロックのアレンジに乗せた作品が、アルバムのほとんどを占める。「私は常に正直であるように心掛けてきた。でも曲の多くは、私の人生に起きたことを忠実に再現しているのよ」と彼女は言う。「登場人物の中には、今でも深く関わっている人もいれば、音信不通の人もいる。何人かは怒って電話を掛けてくるかもしれない。覚悟しておかなくちゃ」

「Christine」の中でルーシーは一人の親友に、自分にとって価値のないパートナーで妥協してはいけないと忠告している(“結婚には反対よ/祭壇に靴を投げつけて、絶交ね”)。ルーシーは、曲に登場する友人にデモテープを送ったという。「“あなた自身の人生なんだから、よく考えなさい”と伝えたかった。私の感じたままを表現したのよ」と彼女は言う。友人のパートナーも曲を聴き、「ルーシーはいい友だちさ」とコメントしている。

「Triple Dog Dare」では、別の旧友に対する沈んだ想いを歌っている。おそらく相手はもっと違う感情を持っていたかもしれない。「書くのが辛かった」と彼女は証言する。「とても奇妙で複雑な関係だったから。でも当時の私はまともだった。もしも自分に自信があったら、どうだったかな? どちらにしろ終わっていたのかな?」



「Thumbs」は、『Home Video』の中で最も心打たれる作品だろう。2018年のツアーで初めて曲を披露すると、ファンが「ルーシーは“Thumbs”をまだリリースしないのか?」という名前のTwitterプロフィールを立ち上げた。アカペラに近い静かなバラード曲で、ルーシーがまだ大学生だった2014年のある晩の出来事を歌っている。ルーシーは、友人と友人の駄目な父親と会うことになった。ルーシーは徐々に、自分の手で友人の悪い父親を殺してやりたいという感情に駆られる。“私が彼を殺してやる/もしもあなたが許してくれるなら”と彼女は歌う。

歌詞の最後は“あなたは決して父親の世話になんかなっていない/たとえ彼がそう言ったとしても”と締め括られる。「歌の中で彼女に語りかけているのは私自身。でも、自分自身に対する言葉でもある」と彼女は言う。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE