甲斐バンド、デジタルとアナログの狭間でもがく80年代初頭を振り返る

この「破れたハートを売り物に」が最初に歌われたのが、1981年の伝説の花園ラグビー場ライブの1曲目だったんですね。打ち込みの曲なので、ドラマーの松藤さんがドラムセットのところにいなくていい。松藤さんと甲斐さんがステージのフロントで並んで歌って、2曲目が1978年のアルバム『誘惑』の中の「翼あるもの」だった。始まった途端に、2万人のお客さんが一斉にステージに押し寄せてきたんです。その時のライブバージョンを、2019年の45周年記念ベスト『サーカス&サーカス2019』からお聞きください。

翼あるもの [Live] / 甲斐バンド

どのライブもあの時にあそこにいたということで何か分かち合えたりするものですけど、このライブの会場にいらっしゃった方が今、何をしているのかなっていうのは、しばらく頭の中にありましたね。

「翼あるもの」はどのライブでもお客さんの大合唱が起きましたけど、今お聞きいただいたように合唱が聞こえず悲鳴のような声が記録されております。イントロが始まった途端にお客さんが押し寄せてきたんです。ステージは、当時日本で使われていた野外ステージの中で一番大きく、ザ・ローリング・ストーンズの公演と同じものでした。そこに2万人の客席のお客さんが殺到した。1981年当時には、野外イベントのノウハウはまだなかった。芝生の上に座布団を敷いて座席を示していた。お客さんが興奮して、自分の足元の座布団を一斉に投げて前に押し寄せてきた。投げた座布団が空に乱舞していて、何枚かの座布団がステージで歌っている松藤さんと甲斐さんの胸に当たったりする光景が繰り広げられました。もちろん一番前に鉄柵はあったんですが、その鉄柵がズルズルとステージの方に動いていく。

撮影していたカメラマンの井出情児が真っ青になってました。6曲目の「嵐の季節」がうたわれた時に、甲斐さんが「怪我人が出そうなんだ。一歩下がってくれ」と言って空気が変わりました。甲斐さんは打ち上げで、「あの時はオルタモント(ザ・ローリング・ストーンズの1969年のオルタモント・フリーコンサート)にしたくなかったんだ」と言われてました。花園ラグビー場の「翼あるもの」は、まさにライブ伝説そのもののような曲です。1981年9月13日の花園ラグビー場でのライブバージョンがCDになったのはこれが初めてだと思います。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE