甲斐バンド、デジタルとアナログの狭間でもがく80年代初頭を振り返る

ナイト・ウェイブ / 甲斐バンド

2019年に出た45周年ベストアルバム『HEROES -45th ANNIVERSARY BEST-』からお聴きいただいていますが、これは12インチシングルとして発売されたものです。打ち込みで、オリジナルの曲よりもちょっと違う音やサイズのダンスバージョン。12インチシングルという新しいスタイルがイギリスあたりから入ってきて、色々なアーテイスト、バンドが試みてました。この曲の入った「虜-TORIKO-」は、1982年2月にニューヨークでトラックダウンされました。エンジニアは、ボブ・クリアマウンテン、ニューヨーク3部作の1作目でした。

BLUE LETTER / 甲斐バンド

1982年11月発売のアルバム『虜-TORIKO-』から「BLUE LETTER」。この曲は、当時放送局が放送を見合わせるということがありました。なぜかというと、孕ませるという言葉が問題なのではないかと言われて、なんだそれ? と皆で話した記憶があります。当時書かれたものを読んだり、音源を改めて聞いたりしていたんですが、この番組は、そういう時間が楽しいんです。

当時、作家の亀和田武さんがこの「BLUE LETTER」とロバート・B・パーカーの『愛と名誉のために』を比較した文章を書いてました。『愛と名誉のために』は、アル中で浮浪者になってしまった男の贖罪、死と再生のために海に入っていくという話なんです。亀和田さんは、これと「BLUE LETTER」を比較して甲斐よしひろが求めたものという記事を書いてまましたが、それがいい文章だったんですね。甲斐バンドについては、色々な人が書いた文章が残されてます。亀和田さんは、コンサート見に行った時に、甲斐さんと大阪駅で待ち合わせたんだそうです。新幹線から降りてきた甲斐さんが読んでいたのが、ロバート・B・パーカーの『愛と名誉のために』だった。移動中も甲斐さんは小説を読んでいたとのことでした。

この『虜-TORIKO-』のトラックダウンのためにニューヨークに向かった時に、甲斐さんが読んでいた小説が3冊ありました。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、『エデンの東』、『約束の地』。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』は、ジェームズ・M. ケインの有名な小説で1981年には映画化されています。『エデンの東』は、ジョン・スタインベッグの小説でジェームズ・ディーン主演で映画になりました。『約束の地』は、1980年代初めにブームになったハードボイルド作家・ロバート・B・パーカーの代表作です。「BLUE LETTER」の中の、ちょっと暗い文学的で大人の叙情性というのは、そういう小説からの流れでもあったんでしょうね。当時一番日本で流行っていた小説は、田中康夫さんの『なんとなくクリスタル』ですからね。そういう軽薄短小の対極にいたのが甲斐バンドだったんだなと改めて思いました。こういう小説のようなロックは誰もやっていませんでした。『虜-TORIKO-』からもう一曲、「観覧車 ’82」。

Rolling Stone Japan 編集部

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