ピクサー最新作『あの夏のルカ』イタリアの美しい情景が織りなす感動作

ピクサーの新作『あの夏のルカ』(C)2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

ピクサーが贈る控えめなイタリア版リトル・マーメイドと言える『あの夏のルカ』。最新作はこれまでの作品ほどメジャーではないが、それでも魅力に溢れ、人々の琴線に触れる感動作だ。

「マイナーなピクサー」とは、少しばかり含みが過ぎるフレーズかもしれない。ピクサーはこれまで何度もアニメーション映画の存在を進化させてきた。そして過去四半世紀に渡って、アニメ作品の映画としてのポジションを高め、物語の感情を深めながら、最高傑作を数多く排出してきたわけだ(シリーズ化された映画『カーズ』もピクサー作品で、誰もが不完全で、慈悲深い神は神話というのがコンセプトだ)。ピクサー最新作『あの夏のルカ』はこれまでの作品とは一線を画している。イタリア版リトル・マーメイドとも言えるこの作品、『インサイド・ヘッド』ほどの大きなイマジネーションはなく、『トイストーリー』の子供らしい純真さの終焉の重要性を説くこともなく、『ファインディング・ニモ』ほどのウィットと物悲しさもない。これらの作品に比べて、描かれている出来事も格段に控えめで、監督エンリコ・カサローザにとって非常に私的な友情物語でありながらも、海辺でゆったりと過ごす午後の雰囲気に似た作品である。良いのか、悪いのか分からないって? この最新のおとぎ話に関しては同じような感想を聞く機会が増えることと思う。

喜びに溢れた青春の謳歌、未知の世界への憧れ、ホームメイドのタリアテッレをたらふく食べたあとで石を敷き詰めた裏道をベスパで疾走するめくるめくスリルを、単純に「アニメーション映画の巨匠が手掛ける二流作品だから」と片付けるのは間違いだろう。この映画は斬新さを排除した中に物悲しさが存在する。これは偉大なピクサー作品すべての真髄とも言える「何かを求める痛み」と同質で、そのまま絵葉書に使えるほど明るい風景と相反する筋書きの裏側で、微かな音を立てながら存在を示している。この作品を見る側は、憧れが溢れ出したときのあの感覚を実感するために、過保護な両親の監視のもとで暮らしているルカほど大人である必要はない。その後の人生を一変する夏の日も要らないし、知らないことを教えてくれる年上の子どもとの出会いも必要ないし、いじめっ子の象徴エルコール・ヴィスコンティにいたぶられて苦しむ必要だってない。同じ気持ちになるためにシー・モンスターになる必要もないのだ。

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Translated by Miki Nakayama

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