ラウ・アレハンドロがもたらす新たな多様性 ポスト・レゲトンへと突入するラテン音楽の今

ラウ・アレハンドロ(Photo by 90th Shooter)


ラウ・アレハンドロがもたらす多様性

しかし、レゲトンの支配があまりに長く続いたことで、若いアーティストたちにとってのレゲトンは、親の世代の音楽とみなされるようになった。彼らの創造力は必然的に別のところに向かうことになる。「最近、私のスタジオに来て音楽を聴かせてくれる若者たちは、レゲトンと言うと、『ああ、父さんがウィシン&ヤンデルをよく聴いていたね』といった感じなんです」とセルーシは語る。「彼らは、もちろんレゲトンをリスペクトしていますが、『たしかにそれを聴いて育ったけど、やりたいことは別だから』と言います。ラウは、出会ったときからクリス・ブラウンやブルーノ・マーズになりたがっていました」


ラウ・アレハンドロ

アレハンドロは何年も前から『VICE VERSA』のような作品を作ることを計画していたと、長年の友人で新作のプロデューサーでもあるケイレブ・キャロウェイは言う。2020年の前作『Afrodisíaco』は「彼にとっての初めてのビッグプロジェクトだったから、あえて商業的なアプローチを取った」とキャロウェイは語る(『Afrodisíaco』の収録曲「Química」におけるレゲトンとハウスミュージックの融合は新作とのつながりを示唆するヒントとなっている)。「次のアルバムは、もっと実験的なものにしたかった」とキャロウェイは言う。『VICE VERSA』ではレゲトンやトラップに加え、パワーポップ、ニューウェーブ、ドラムンベース、ハウスミュージック、ブラジルのバイレ・ファンクなどが取り入れられた。

もっとやれという指令は、しばしばアレハンドロ自身から届いた。マルコ・"タイニー"・マシスは、メキシコのトゥルムで、オルタナティブ・バンド「Lara Project」を率いるプロデューサー、マヌエル・ララと共に作曲を行っていたときにアレハンドロからのメッセージを受け取ったと回想する。即座に3つのデモを作成し、そのうちのひとつが「Desenfocao」となった。この内省的なロックトラックを、アレハンドロは苦痛に満ちた物語の背景として使用した。歌い手は、忘れられない恋の思い出から逃れようと、果てしない夜遊びの奔流に身を投じる。彼はスペイン語で歌う。“ベッドは満杯だ/おれは空っぽだ”。



アレハンドロは「¿Cuando Fue? 」と 「Brazilera」でも同様の閃光を放つ。タイニーは数年前から「¿Cuándo Fue?」のビートに取り組み始めていたが、アレハンドロはこのトラックを、高速で激越なドラムンベースへと押し広げるべきだと考えた。出来上がったトラックは、轟音で飛び去った果てに甘いシロップのようなストリングスへと着地して幕を閉じる。



キャロウェイは『VICE VERSA』に収録されているいくつかの際立った曲が、「違ったことをやれる」ことをラテン業界の他のアーティストに向けて証明することを期待するが、一夜にしてメインストリームに大きな変化がもたらされることはないだろう。「いても立ってもいられない気持ちになります。変化が明日にでも起きれば多くのクールなアーティストに新たなチャンスがもたらされます」。セルーシは言う。「にも関わらず、変化は遅いのです」。

理由のひとつは、ある程度の商業的成功を収めてからでないと、実験するゆとりが与えられないことにある。現状においてそれは、まずレゲトンの曲から始めるしかないことを意味する。「ここまで来るのは大変だった」。キャロウェイは言う。「ほんとに何年もかかったよ」。加えて、比較的自由度の高いアーティストであっても「やってみてうまくいかないことも多い」のだとキャロウェイは語る。「あるいは、仮にうまくいったとしても、それが一風変わったものであれば、レーベルは『やっぱりリスクを取るのはやめておこう』となってしまう」。

いまのところこうした状況を変えようと望み、またそうすることを許されているプロデューサーや作曲家はほんのひと握りしかいない。アレハンドロは前作『Afrodisíaco』で、タイニー、ケイレブ・キャロウェイや、「Todo De Ti」を共同作曲・プロデュースしたMr. Nais Gaiを起用。タイニーとマヌエル・ララは、上述したカリ・ウチスの「Telepatía」にも参加している。

多くの障害にも関わらず、セルーシは変化を感じ始めてもいる。「トップ10のラインナップがどの国でも同じという状況から、ローカルなムーブメントへの回帰が起きています。今、アルゼンチンのトップ10はとてもユニークなものになっています。スペインやメキシコでも違ったものがちらほら出てきています」

「Todo De Ti」と「Telepatía」、そして1月にラテンラジオで1位を獲得した、カミロの眩しいクンビア「Vida de Rico」の成功は、間違いなく今後多くのアーティストが新たな領域へと踏み出すことを後押しするだろう。

「ラウにできるなら」と、ソロ作を準備中のアルヴァロ・ディアスは言う。「自分にだってできるはずだ」。

From Rolling Stone US.




ラウ・アレハンドロ
『VICE VERSA』
配信中
https://VA.lnk.to/rau_viceversa

【プロフィール】
■1994年生まれ、プエルトリコ出身、27歳、ラッパー、シンガー、ソングライター

■ギタリストの父親と、バッキング・ヴォーカリストの母親の影響で、エルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソン、クリス・ブラウンなどの音楽に影響を受ける。また、アレハンドロと父親は長年マイアミやニューヨークに住んでおり、そこでR&Bやダンスホールといったジャンルからインスピレーションを受けていた。

■2014年にSoundCloudを通じて楽曲を発表し始め、2018年にはSony Music Latinが新たな音楽的才能の獲得を目指した音楽プロジェクト「Los Próximos」として選出される。このプロジェクトによって有名になり、その結果、オズナなどの著名アーティストが彼に注目し、コラボレーションに起用される。

■2017年、リード・アーティストとしての初のシングル「Toda」をリリース。2018年に同曲のリミックスがリリースされ、そのミュージック・ビデオはYouTubeで現在11億回以上の再生数を記録している。

■2019年にはニッキー・ジャムとのシングル「Que le dé」をリリース、さらに同年リリースしたファルーコとの楽曲「Fantasias」が全米ラテンチャートで12位にランクイン。チャートに20週留まり、これまでのアレハンドロの曲の中で最長期間となった。

■2020年11月13日、1stアルバム『Afrodisíaco』を発売

■2021年5月21日に配信となった最新シングル「Todo De Ti」(意味=あなたの全て)は、Spotifyグローバル・チャートで3週連続に渡って2位に留まり、ビルボードHOT100の45位にランクイン(2021年6月25日時点)。2021年5月末時点でTikTok史上3番目に再生された楽曲として、同プラットフォームで1億500万回以上の再生回数を記録。また、ミュージック・ビデオは、1週間で4,000万回動画再生され、YouTubeの世界トレンド・ミュージック・ビデオ3位にランクイン、現在までに1億8,000万回再生されている。

■2021年6月25日、「Todo De Ti」を収録した2ndアルバム『VICE VERSA|ヴァイス・ヴェルサ』(意味:逆でも同じ)を発売。

Translated by Kei Wakabayashi

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