ポルノではなく芸術、世界の官能映画30選|2021上半期ベスト

15.『ポーラX』(1999)

Photo : Winstar Cinema/Courtesy Everett Collection

『ポーラX』は、レオス・カラックス監督による米作家ハーマン・メルヴィルの小説『ピエール』の胸が痛くなるほどパーソナルな改作である。同作は、パリのボヘミアンとして貧しいながらも小説家として生きるため、上流社会の生活から隠遁する、ふさぎこんだ青年(ジェラール・ドパルデューの息子のギヨーム・ドパルデュー)の物語だ。姉を名乗り出る漆黒の髪の美女(カテリーナ・ゴルベワ)が森から現れ、貧しい生活を送る主人公に魔法をかけたとたん、すべてがヒートアップする。カラックス監督は1980年代末に新進気鋭の若いフランス人監督として頭角を現したものの、『ポンヌフの恋人』(1991)の制作中に燃え尽きてしまった。カムバック作でもある『ポーラX』でカラックス監督は、一見優しくも貪欲な本物のセックスを俳優たちに要求した。むさ苦しい部屋の暗闇のなかで身もだえする身体は不明瞭で、芸術と残虐性との境界を曖昧にしている。野生味あふれる、どの作品よりも緊迫感に満ちたドラマを巧みに表現しているのだ。(Writer: ERIC HYNES)

16.『ベーゼ・モア』(2000)

Photo : Film Fixx/Courtesy Everett Collection

「これはマスターベーション用の映画じゃない」と復讐を描いたスリラー映画『ベーゼ・モア』を手がけたふたりのフランス人監督、ヴィルジニー・デパントとコラリー・トラン・ティのいずれかが言った。「要するに、ポルノ映画ではないの」。なるほど。このように言い切ったのはコラリー・トラン・ティ監督だが、彼女をはじめ主演のカレン・ランコム(訳注:当時は「カレン・バッハ」名義で出演)とラファエラ・アンダーソンは、過去にポルノ映画に出演し、仏ポルノ映画に華を添えてきた人物だ。そんなランコムとアンダーソンが劇中であからさまなオーラルセックスや性交を行っている姿を目の当たりにすると……観客のなかには「それでもポルノじゃないの?」と混乱する人もいるだろう。古びたローファイ・スタイルで撮影され、エピタフ・レコードのバックカタログからくすねてきたようなサウンドトラックが特徴の暴力的で笑えるくらい平凡なストーリーの同作は、男のファンタジーを描いた典型的なポルノ映画というよりは、パンキッシュなB級映画に近い(本誌の映画批評家のピーター・トラヴァースは、「セックスシーンありの『テルマ&ルイーズ』だ!」と女性のエンパワーメントを描いた物語に見事になぞらえた)。だが、同作はいくつかの国ではいまだに上映禁止となっており、スクリーン上で繰り広げられるセックスシーンの膨大さをとっただけでも、同作は極めてニヒルなポルノ映画と紙一重である。(Writer:DAVID FEAR)

17.『赤い部屋の恋人』(2001)

Photo : Mary Evans/ARTISAN ENTERTAINMENT/REDEEMABLE FEATURES/Ronald Grant/Everett Collection

男(ピーター・サースガード)は、ネット・トレーディングで巨万の富を得たシリコンバレーの長者で、女(モリー・パーカー)はストリッパー。男は女を金銭で雇い、ラスベガスで3日間を一緒に過ごす。女は男の前でラップダンスを披露し、男は魔法の杖のように富を振りかざす。これらすべてをウェイン・ワン監督は資本主義と肉欲をめぐる哲学論文のように取り扱っている。米HBOの西部劇テレビドラマ『デッドウッド〜銃とSEXとワイルドタウン』に出演しているパーカー本人(あるいはセックス専用のスタント)がロリポップを隠すゲームを始めるや否や、『赤い部屋の恋人』は完全に異次元のセックス・パワーゲームに突入する。(Writer: DAVID FEAR)

18. 『インティマシー/親密』(2001)

Photo : Empire Pictures/Courtesy Everett Collection


イギリスの作家ハニフ・クレイシの作品を題材とし、『ラストタンゴ・イン・パリ』のテーマを再訪したパトリス・シェロー監督の2001年の映画『インティマシー/親密』。同作は、互いに素性を知らない男女が週毎に行う(非擬似)セックスに焦点を当てている。互いのことを深く知るにつれ、ふたりの人生は複雑さを増す。『ラストタンゴ・イン・パリ』同様、本物らしいセックスシーンというコンセプトとその作用について再考させられる作品だ。目の前で繰り広げられる荒々しくも濃厚なセックスシーンを見終わった後、あなたは登場人物のことをもっと深く知るようになるのだろうか? それとも、その逆だろうか? いずれにせよ、サスペンス映画『シャロウ・グレイブ』(1994)のケリー・フォックスが劇中で共演者のマイク・ライランスにフェラチオをしたことで同作は悪名を得、フォックスのキャリアは失速してしまった。それでもフォックスは、同作において史上最高の演技を披露したと主張しつづけている。(Writer:BILGE EBIRI)

19.『天国の口、終りの楽園。』(2001)

Photo : IFC Films/Courtesy Everett Collection


『セロ・グラビティ』(2013)で宇宙空間を探究し、『トゥモロー・ワールド』(2006)で長回しの素晴らしさを体験する前、アルフォンソ・キュアロン監督は2001年の大ヒット映画『天国の口、終りの楽園。』でエロチックな3Pの数学的な可能性を探索した。たしかにアナ・ロペス・メルカードの豊満なバストは観客と性的に興奮したふたりの若い旅仲間にとっては魅力的なトラップだが、青年たちが相手に対して抱く欲望こそが同作のゴールである極めてエロチックでカタルシス的なグループセックスの推進力になっている。クライマックスの長い余韻のおかげで同作はMPAAのレイティングなしに公開され、忌まわしいNC-17指定を免れた。それだけでなく、主演俳優のふたりは映画スターとしての地位を確立した。(Writer:ERIC HYNES)

Translated by Shoko Natori

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