ビリー・アイリッシュ『Happier Than Ever』制作秘話「二度とアルバムは作らないつもりだった」

ビリー・アイリッシュ(Photo by Yana Yatsuk for Rolling Stone)

米ローリングストーン誌の表紙を2年連続で飾った、ビリー・アイリッシュ最新ロングインタビュー。前編に引き続き、この後編ではニューアルバム『Happier Than Ever』の制作背景にフォーカス。彼女はさまざまな痛みを克服しながら、アーティストとして大きく成長した。いよいよ発表された今作を、ビリーとフィネアスはどのように作り上げたのか。そして、彼女はどんな未来へと向かっていくのか。

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恋の傷跡、人間関係の痛み

冷めきった愛の終わりを描くようにゆっくりと始まり、やがて激しいエレキギターのサウンドが響き渡るタイトル曲は、本作のセッションで最初に取り組んだ曲であり、彼女が生き生きとしていたというヨーロッパツアーの最中に生まれた。他の曲群とは趣の異なるカタルシスを有し、セクシーでエレクトロニックなビートとフォークの温もりを行き来するような初期の作風を思わせる。どの曲も繊細かつ官能的であり、むき出しの脆さと自らの身を守るという決意の狭間で、彼女が揺れ動いているのがわかる。

私生活について一切明かさないという姿勢を保ち続けている彼女にとって、真摯な思いを曲にすることは決して容易ではなかった。「付き合ってきた人は2人」。彼女はそう話す。「ものすごく多くのことを経験した。でも、私は本当にリアルで当たり前の何かを知らない」。今年前半にApple TVで公開されたドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』に対するメディアとファンの反応を見て、彼女は新曲群に登場する人物など、具体的なことを明かさないことに決めた。「『君はアーティストなんだから、発表した作品についてより多くを知りたいっていうファンの要望に応えるのは当然だ』なんて言われるけど、そんなのおかしい」。彼女はそう話す。「『あなたと共有するのはこれだけ。他は私の頭の中にしまっておく』っていう私の決断は、尊重されるべきだと思う」


Photographs by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Fashion direction by Alex Badia. Cardigan by Helmut Lang. Slip Dress by Gucci (Custom).

『WHEN WE ALL FALL ASLEEP 〜』の制作が終盤に差し掛かっていた2018年末から、2020年のグラミー受賞式までを描いた『世界は少しぼやけている』では、彼女の恋愛事情が一部描かれていた。そういった面を公表することに、彼女は当時から消極的だった。「プライベートなことは明かしたくない。その考えは昔からずっと変わってない」。彼女はそう話す。

彼女の元恋人であり、7:AMP名義でアーティスト活動をしているブランドン・アダムスは、同ドキュメンタリーにおけるキーパーソンだ。『世界は少しぼやけている』では、ビリーと当時20代前半だったブランドンの間で交わされる痛々しいやり取りが描かれていた。同作の公開後、彼女のファンはソーシャルメディア上でブランドンと彼の家族を攻撃した。



10代の少女と年上の彼氏との関係を歌った、冷たさを感じさせるシングル曲「Your Power」を聴いたファンの多くは、それがブランドンとビリーのことだと考えた。4月末に同曲を公開した際に、「これは誰もが経験したり聞いたりしたことのある出来事の縮図のようなもの」というコメントを添えた彼女は、その見方を真っ向から否定した。「みんなもっと冷静になるべき」。そう話した上で、彼女はドキュメンタリーについてこう述べた。「あの作品で描かれていたのは、私たちの関係のごく一部でしかない。私たちの関係が本当はどうだったかなんて誰も知らない。思ったことをすぐに口にしたりせずに、みんながもっと冷静になってくれたらって思う」

ビリーは自身を「引きずりがちなタイプ」だとしているが、2019年にブランドンと別れてからの2年間は、誰かに頼らずに生きる術を模索し続けているという。「前はそんなの無理だと思ってた」。彼女はそう話す。「それって皮肉だよね。だって私は、この人となら一緒に生きていけると思える相手と付き合ったことなんてないから。私の感情はいつも誰かの存在に対するもので、それがすごく苦痛になってた」

彼女は今でも、その痛みを克服しようと努めている。「どんな傷もいつかは癒えるはず」

Translated by Masaaki Yoshida

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