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素朴な田舎町、スワーツ・クリーク

地方都市の郊外にある住宅地の例に漏れず、スワーツ・クリークは素朴な町だ。栄えているフリントから車ですぐのところでのんびりと暮らせると住民たちはよく言う。

何エーカーもの耕地の間を抜けると人口5500人のスワーツ・クリークに辿り着く。町の至るところに小型のショッピングセンターや田舎風のレストランがあり、雨と雪にさらされ老朽化した、町の名を冠した給水塔がそびえ立つ。同じくスワーツ・クリークという名の支流と並行してメインストリートのミラー通りが南北に33マイル(約53キロ)走る。町の端に沿って流れる川は長い砂利の私道の先に建つ平屋の裏庭を彩り、町の中心部に近づくにつれ手入れされた小さな庭付きの2階建ての家が増える。

ダラーストアや大衆酒場、小型のショッピングモールを通り過ぎながらさらに数マイル進むと、かつてベーコンさんが駆け出しだった頃受付係りとして働いていたJ.C.ペニーが入っていた大型ショッピングモールのジェネシー・コモンズが見える。


生前のケヴィン・ベーコンさんは楽しく美容師として働き、シカゴに拠点を移すのが夢だった。(Courtesy of Vanessa Woodley)

美容師は天職だった。高校生の頃、新しい髪型を思いついては女友達で試していた。実験的過ぎて不安になることも時々あったものの彼は常に全力で、経験を積むと友人の息子や、後にルームメイトの髪をセットするようになった。包装技術者の父カールさんは有名スタイリストなどという非現実的な夢を追うのではなく、工業の道を進むことを望んでいたとケヴィンさんは友人たちに話していた(カールさんとご家族はこの件についての電話やメールに応じなかった)。

友人たち曰く、志望校のイースタンミシガン大学に入れたものの、200ドルの寮の敷金が払えなかったため、近所のベイカー大学に通い始めた。しかし、在学中も美容師になる夢を諦めきれなかったベーコンさんはじきに中退し、美容師免許を取ったとマイヤーズさんは言う。

それでも、給料の低さへの不満は残っていた。友人たちに仕事で行くとだけ伝え、アッパー半島へ消えたことがあった。給料が良い以外、仕事の具体的な内容などは聞かされなかったが、9日後には田舎はつまらないという理由で帰って来た。特に、ゲイ男性の出会いの場が存在しないと彼は語っていた。

その後ミシガン大学フリント校に通い始めたベーコンさんは美容師のアルバイトをしながら、2019年には一時大学のジェンダー・セクシュアリティー・センターで活動し、誇りを持てる未来に向かっているようだった。

しかしここでも問題を抱えていた。友人たちによると、ベーコンさんは以前から鬱やボディ・イメージで悩まされており、拒食と過食を繰り返したり、腕や脚を切りつけたりするなど、自傷行為に至ることもあった。衝動的に行動してしまうことも多く、マイヤーズさんとベーコンさんの母とのメッセージのやり取りによると、2018年に『アリー/スター誕生』を映画館に観に行った際、首を吊るシーンを観た後マイヤーズさん曰く「呆けていた」ベーコンさんは翌日睡眠薬を過剰摂取し、病院で胃の洗浄が行われた。1カ月後、心が苦しいと言う彼を母親が病院に連れて行ったとマイヤーズさんは言う。

2019年11月、マイヤーズさん曰く「肌が見えないほど」自分を切りつけたベーコンさんは2週間後、再度精神科に赴いた

Translated by Mika Uchibori

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