亀田誠治が語る松本隆トリビュートアルバム「全亀田を投入した」



田家:続いてアルバムの9曲目「風の谷のナウシカ」。歌っているのはDaokoさん。1984年の安田成美さんの曲で、同名のアニメ映画の主題歌。作曲さんは細野晴臣さんでした。この曲を選んだのは?

亀田:これはDaokoさんに歌ってもらいたいというのが最初からありました。「風の谷のナウシカ」を収録したかったのは、J-POP史上こんなに美しい曲はないと思っていて。本当に僕が好きな曲なんです。そして多くのアーティストが口を揃えて名曲だと言う。細野さんの楽曲と松本先生の歌詞の、ベストマリアージュというか。これを今の時代に歌ってもらうなら誰かと思った時に、オリジナルの持つ浮遊感や既視感のようなものを表現できるDaokoさんがいいなと一発で思いました。何しろ僕はデビューの時からDaokoさんを知っているんです。シーンの中で常に自分のアイデンティティを追求している彼女を見ていると、やっぱり彼女の持っている思いを、アーティストがアーティストとしてどういうパフォーマンスで伝えていきたいかを考えているんだな、とひしひしと感じるところがあって。松本先生も当時そのような気概を持って活動されていたと思います。

田家:彼女もこの映画のファンだったそうですね。

亀田:このフレーズの時は映画のこのシーンを思い浮かべて、みたいなお手紙もいただいて。僕ももう一回ちゃんと見なきゃだめだと思ってDVDを買いました。

田家:今映画をご覧になってどうですか? 汚染物質と人間、感染症と人間みたいな置き換えもできますよね。

亀田:これが今のコロナ禍とシンクロしすぎちゃって。こんなシンクロが起きるんだと。それと僕が今回この楽曲を選んだのはまた別の理由なんですよ。曲の美しさで選んだだけなんですけど、このシンクロとDaokoさんというある意味透明感、巫女のような神聖さも彼女の歌に感じているので。なので、Daokoさんがコロナ禍でDaokoさんの声で歌ってくれたのが、本当に僕にとって意味のあることでしたね。Daokoさんじゃなきゃダメという感じでした。

田家:細野さんの原曲にはアンビエントっぽさもあったりしましたよね。それは意識されたんですか?

亀田:しましたね。彼女にどう聴こえるかというアップデートは必要だと思っていたのと、細野さんの原曲は弦楽の使い方のオーケストレーションが緻密にされていて。今のコロナ禍でこのサウンドを纏ってしまうと、ちょっと装飾過多になってしまうかなと僕は思って。もう少し隙間を作らないといけないかなと考えながらサウンドデザインしました。この曲はストリングスが生なんですけど、ヴィオラの菊地幹代さんがレコーディングの時に、僕のところにきて「お疲れ様でした」と言って泣いたんです。「この曲を自分の一生の中でレコーディングできる機会があるとは思いませんでした」と。それくらいいろいろな人の心の中に残っている曲なんだなと思って。自分がいつも呼んでいる身近な仲間が感動している作品は、お皿になったり電波になったりして届く中で、絶対この感動は色あせないだろうなと確信を持ちました。

田家:改めてお聴きいただきましょう。アルバム9曲目、Daokoさんで「風の谷のナウシカ」。

Rolling Stone Japan 編集部

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