ホイットニー「カントリーロード」カバーに感じる匠のドラム、鳥居真道が徹底考察

まことにどうでも良い話で恐縮ですが、2ヶ月前からダイエットに取り組んでいます。主に食事制限をしており、たまにウォーキングやランニングもしています。ふと、BPMに合わせて歩いたり走ったりしたら楽しいのでは? と閃きました。歩くときは、BPM120前後の曲を主に聴いています。その手のプレイリストがSpotifyにあるのです。マイケル・ジャクソンやマドンナ、プリンス、シンディ・ローパー、ホイットニー・ヒューストンなどのヒット曲で構成されており、こうした曲に合わせて歩くのはとても楽しいです。歩行のふりをした小躍りといった趣があります。

他方、走る場合にはBPM160~170ぐらいの曲に合わせて走っています。こちらのプレイリストに入っているのは、エミネムの「Lose Yourself」やブロンディの「One Way Or Another」、アーハの「Take On Me」などです。リズムに合わせたランニングはただひたすらしんどいだけで、まったく楽しくありません。その曲のグルーヴにのっかっている感覚もありません。小躍りとは程遠い。

ビートに合わせて歩いているときはビートの点と点の間に遊びがあり、緊張と脱力に濃淡をつけることができるのでが、ランニングのほうは、ビートの点に体の全体重がずしりずしりとのしかかる感覚があって、音楽の軽やかさを殺してしまっているように感じられます。体ができてきたらまた違ったように感じられるのでしょうが、今はただただ苦しいだけです。テンポを無視してサバイバーの「Eye Of The Tiger」を聴きながら走ったほうがよっぽど爽快です。

アーリックがドラムを叩く姿を見ていると、四肢の動きが軽やかで感心します。打面の跳ねっ返しを利用して次の動作へと移行しているように見受けられます。ずしんずしんと地面に沈み込んでいくような私のランニングとは大違いです。こうした軽妙な身のこなしによって繰り出される重心の低いどっしり安定したビートが彼のドラムプレイの最大の魅力であり、彼のファルセット唱法の足場をしっかり支えていると言って差し支えないでしょう。


鳥居真道



1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。
Twitter : 
@mushitoka / @TRIPLE_FIRE

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Rolling Stone Japan 編集部

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