劇伴と「開けてなかった引き出し」ーそんなふうに映画と寄り添いつつ、“バレる嘘と爆ぜる心臓/バラした奴はバラすシナリオ”と高樹さんが歌う「爆ぜる心臓」のサビは、実にKIRINJI的だなと思ったりもしたんですよね。堀込:自分としては「KIRINJIっぽくしよう」ということは考えませんでした。映画のエンドロールで「なんでこんな曲が最後に流れるの?」と思われるのは、お客さんにも作品にも不幸なことなので、バシッとハマるものにしようということだけを考えながら作りました。
ー逆に言えば、「KIRINJIらしさ」はそんなに求められなかった?堀込:でも、監督のタカハタ秀太さんはKIRINJIの最近の活動までチェックしてくれていて。僕はプロの劇伴作家じゃないので、いわゆる劇伴っぽいものは作れないし、そういうのは最初から求められてなかったと思います。監督はセンチメンタルな場面で湿っぽい曲が流れるとか、そういうのは好きではないみたいで。「ベタベタに合っているわけではないけど、演出としては成り立っている」みたいな感じを求めていたのかな。それに気づいてからは楽しく作れました。
ー『共演NG』の劇伴では、『cherish』を踏まえてエレクトロっぽい音を求められたそうですが、今回は高樹さんもコメントしていたように「自分の中の開けてなかった引き出し」をいくつも解禁しているように映りました。堀込:オープニングの曲は「千年紀末に降る雪は」のイントロっぽいですよね。スローで重いベースのリフがあって、自分で言うのもアレですけど(笑)かっこいいのができたなと。なかなか自分から「久し振りに『千年紀末』みたいな曲を作ろう」とは思わないですよね。それはちょっとかっこ悪いですから。でも、人から頼まれたら作れるんだなって思いました(笑)。
ーすごいことをサラリと仰いましたね(笑)。もしオファーが届けば「Drifter」みたいな曲を作る可能性もある?堀込:誰かが頼んでくれたら作りますよ。
ー劇伴に話を戻すと、高樹さんが言うところの「フェイクのタンゴ」もよかったです。堀込:劇中のバーで流れてる曲も、監督のなかにイメージがあったみたいで。ジャンゴ・ラインハルト、ジプシージャズとか。ただ、そういう音楽はその道の人でないとなかなか雰囲気が出ないし、タンゴのほうが渋くてかっこいいんじゃないかと思って、「アストル・ピアソラみたいなのはどうですか?」と提案しました。そこからタンゴをよくわかってない人間がタンゴっぽい曲を書いたわけですが、それを(バンドネオン奏者の)北村聡さんに演奏してもらうのは少し恥ずかしかったですね(笑)。
ー「ジャジーなバラード」もありましたが、高樹さんは過去のコンピレーションや最近のプレイリストなどで、ジャズも好んで選曲してきましたよね。例えばチャーリー・ヘイデンとか。堀込:好きですね。そんなに詳しくはないけど、音楽をやっていくうえで必要なくらいには聴いています。
ーそういう意味で今回の劇伴は、これまで積極的にアウトプットしてこなかったけど、実は愛聴してきた音楽のエッセンスを世に出す機会にもなったんじゃないですか?堀込:終盤のバーで流れるジャズにしても、歌モノでやると白々しくなるので、劇伴だから書けたというのはあります。なかなかこういう機会でもないと、ああいった曲は書かないので。あの「bar Olivia」という曲は特に気に入っていて。こういう曲だけで1枚のアルバムを作れたらいいな、とも思います。
ー物凄く聴きたいです。堀込:でも、そんなのできるかな。1曲7分、全6曲とかだったら作れるかもしれない(笑)。
Photo by Kana Tarumiーちなみに、劇伴ではどういったものがお好きですか?堀込:いろいろ聴いてきたようで、実は偏っている気がします。例えばヘンリー・マンシーニの音楽を、僕は劇伴というよりポップスとして聴いてきました。そう思い返すと、劇伴を劇伴として聴いてこなかったのかもしれない。単純に音楽として好きなんですよね。
渡邊琢磨さんはかっこいいなと思いました。『美しい星』はストリングスの曲もありつつ、エレクトロニクスもたくさん使っていて、すごく印象に残っています。もちろん、ハンス・ジマーも好きです。
ーだいぶ話が前後しましたが、『鳩の撃退法』はご覧になっていかがでしたか?堀込:面白かったです。ストーリーもかなり凝っていますが、「みんなわかるかなー?」くらいのバランスが一番見応えがありますよね。
ー「最近の日本映画は説明過多」といわれるなかで、かなり硬派なサスペンス/ミステリーだと思いました。堀込:見る人によって解釈も違うだろうし、実は台本にあった説明っぽいというかセンチメンタルになる部分がバッサリ切られている。思い切ったことやっているなと思います。