「ロックは死なない」と叫んだ2021年の最重要バンド、マネスキンを徹底解剖

快進撃をもたらした「カリスマ」の存在

イタリアの人気グループがバイラルでブーストされ、グローバルなバンドへと一気に成長した理由はなんなのだろうか。まず触れておくべきは、メンバーのキャラクターだろう。10代の頃からの絆で結ばれた個性的な4人の佇まい(ステージ上ではいつもコンセプチュアルなファッションでキメている)を見ていると、メンバーの交代なんて考えられないバンドのように感じられる。

ベーシストのヴィクトリア・デ・アンジェリスとギタリストのトーマス・ラッジは、中学校の同級生だったという。そのあと、2人と同じローマの高校に通っていたヴォーカリストのダミアーノ・デイヴィッドが加わり、Facebookを通じて知り合ったドラマーのイーサン・トルキオが参加したことでマネスキンは結成された。それが2015〜2016年頃なので、1999~2000年生まれの彼らは、当時15歳か16歳。ミッドティーンの3人の少年たちと1人の少女は、ローマでストリートライブを繰り広げて、バンドの演奏を磨き上げていった。

転機になったのは2017年、人気オーディション番組「Xファクター」イタリア版への出場。マネスキンは惜しくも2番手になったが、これをきっかけに、同年にリリースしたEP『Chosen』は国内で3位を記録するヒット作となる。



2018年には1stアルバム『Il Ballo Della Vita』を発表し、国内で1位となった。その後、2020年末〜2021年の春にかけてロンドンに長期滞在した彼らは、同地で音楽的なスキルを磨くとともに新作のための作業をおこない、ローマへ戻って『Teatro D’Ira Vol. I』を吹き込み、3月にリリース。イタリアでは当然のように初登場1位に。彗星のごとく音楽シーンに現れた彼らだが、本格的なデビューから4年で100万枚以上を売り上げるなど、母国では既に成功を収めていたバンドだったのだ。

この驚くべき快進撃をもたらしたのは、やはりダミアーノのカリスマ性が大きい。

ポールダンスをやったり、ユーロビジョンの記者会見で奔放な振る舞いをしたりと、ダミアーノは強力なチャームを備えた生粋のフロントパーソンだ。しかも、ロックスター然とした、ジェンダーのステレオタイプを覆すアンドロジナスなビジュアル表現とパフォーマンスは、パロディではなくガチ。そのうえで、彼のアティテュードは明確で、LGBTQ+コミュニティへのサポートを積極的に発信している(ちなみに、彼自身のセクシュアリティはヘテロだが疑問符付きのヘテロキュリアス、イーサンは「セクシュアルフリー」、トーマスはヘテロ、ヴィクトリアはバイセクシュアルだと語っている)。つまり、70年代型ロックスターのイメージを纏った現代的なアイコン、というのがダミアーノの個性だ(旧来の破滅型ではないところもポイントだろう)。

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そして、ダミアーノは唯一無二の声を持っている。その太く低く(もちろんいい意味で)濁った響きをもつボーカルの癖の強さは、彼が尊敬するフランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスやR.E.M.のマイケル・スタイプばりで、どんな曲を歌ってもダミアーノの歌に染め上げてしまう。

ダミアーノの歌で特筆したいのは、イタリア語の発声と、それを強調した巻き舌だ。彼の巻き舌はいかにも強烈で、聴感上の引っかかりを残す(英語詞の「I Wanna Be Your Slave」も、あえて歌に訛りを残しているように感じる)。K-POPやレゲトンがグローバルに受容される状況が当たり前になった今、リスナーにとって歌われる言語はそこまで障壁ではなくなっている。ダミアーノのイタリア語の歌が日本を含めて英語圏や他言語の国で親しまれていることの背景には、リスナーの耳の変化も関係していそうだ。



また、ダミアーノは、デビューシングル「Chosen」から「Zitti E Buoni」に至るまで、ラップ風のフロウを自身の歌に積極的に持ち込んでいる。しかも、それは、現代のラップのフロウを器用に取り入れたものではなく、どちらかといえば、レッチリのアンソニー・キーディスだったり、ラップメタル的だったりする詰め込み型のフロウで、特徴的な声質とイタリア語の語感があいまって、独自のスタイルになっている。

このように、ダミアーノの歌唱スタイルは、ただ「カリスマティックな歌い手」と形容するだけでは収まりきらない、代えがたい引力のようなものを複数持ちあわせている。

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